※これのみで序章にも見えなくはないですが、これ以降続きがないのでスクラップ扱いとしています
※黒子と降旗の大学進学を捏造していますので苦手な方はお戻りください




みごと、我が誠凛高校の優勝で幕を閉じた今年のウインターカップ。その余韻に部内一同浮かれつつも、来年度への優勝に向けて再び厳しい練習の日々が始まった。
そんなある日の放課後、同じ部の仲間の黒子とともに、割り当てられた図書委員の受付カウンターの当番が回ってきた。奇しくも委員まで同じという偶然からか、黒子とは最近よく話す。やはり本好きな彼なので、話題は専ら本のことだ。そのために俺も本を読み始めたのだが、黒子と俺の本の趣味が合ったのか、黒子の選び方が上手いのか、おそらくは両方なのだろう。彼の勧めてくれる本は不思議とどれも面白くて、バスケ部の練習が終わって家に帰ってからも、それらを読みふける時間が増えた。
今日も二人でカウンターに座りながら、黒子に勧められた本の話をしていたところだった。

「でな、あのヒロインが主人公に秘密を打ち明けるシーンの緊張感がすごくてさ…!もう読みながらドキドキが止まらなかったよ」
「あそこは僕もどうなるか気になって、ページをめくる手が止まりませんでした。おかげでお風呂の時間が遅くなってしまって」
「確かにあそこは読みきるまで他のことできねえよなー!」
「あの作家さんのそういう描写力はすごいと思います」

黒子とは面白いと感じる部分も似通っているようで、本当に話が弾むものだから楽しくてしかたない。本の貸し出し受付をしながら盛り上がっていたら、あっという間に帰宅時間を告げるチャイムの音が耳に入ってきた。
うちの図書室は、本を読んだり勉強する生徒たちに静かな空間を提供するためにチャイムを切ってある。いつもより控えめなその音に、数名残っていた他の生徒も続々と荷物を持って図書室から出ていき、いつの間にか残ったのは俺と黒子の二人になった。
もうグラウンドにも人はほとんどおらず、オレンジ色のつよい光がそこら中を染めるばかりになっていた。
残された本を棚に戻して、窓の鍵を確認して、うん、これでよし。黒子が灯りを消すと言ってくれたので、荷物を持って急いで図書室の出入り口前へ行く。

「では、消しますね」
「うん、頼むな」

スイッチがオフにされ、部屋が暗くなる。目が慣れずほんの数秒世界がブラックアウトした瞬間。

「降旗くん」
「ん?」
「好きです」

黒子から言われたことの意味がわからず、思わずえ、と出た声は間抜けそのものだった。まばたきを繰り返し、暗さに慣れた俺の目の前には、真剣な眼差しで俺を見つめる黒子がいた。色素の薄いアイスブルーから注がれる視線はいつもより幾ばくか熱っぽい気がして、無意識にふいと目を逸らす。

「…すみません、困らせてしまって」

何も言わない俺の様子を否定だと受け取ったのか、黒子は眉を下げて謝罪を告げると、カバンを持ち上げてそのままお得意のミスディレクションを使い消えるように去っていこうとしたが、それは俺が慌てて腕を掴んだために叶わなかった。

「あ、ち、ちがう…!今のは、ただ…びっくりした だけで」
「え、」
「だ、だってさ、俺、告白されたのなんて初めてで……えと、今の、って、やっぱ」
「はい。君と恋人になりたい、という意味での好きです」
「…だよな」

どうしよう。不思議と嫌じゃない、けど、だからといって黒子を今すぐ恋人という目で見ることはできない。でも振りたくない。じゃあどうしたら?頭の中で色々なことが散らかってちっともまとまらない。そんな中なんとかこれだけを絞り出すように伝えた。

「……っあした!明日まで、返事を考えさせてほしい、んだ、けど…!いいか…?」
「はい、もちろんです。…ありがとうございます、真面目に考えてくれて」

泣きそうなのをこらえているような、切なげな黒子の顔がぼんやりと確認できて、ああ、声には出ていなかったけど、黒子もすごい勇気を出して俺に気持ちを告げてくれたのかとわかった。

「じゃ、じゃあ鍵は俺が職員室に戻しとくから、黒子は先に帰ってくれていいぜ!お疲れ!」
「あ…ではお言葉に甘えて、帰らせてもらいますね。ありがとうございます。お疲れ様でした」

黒子が空気を読めるやつで助かった。もし、待ってますから一緒に帰りましょうとか言われて帰路を共にすることになっていたら、緊張して答えを考えるどころではなかっただろうから。
黒子の足音が遠ざかるのを聞いてから、俺は図書室の扉に背を預けたまま、ずるずると床に座り込んだ。
耳も頬も熱い。心臓は痛いくらいにどくどくと音を立てている。黒子の声と、先ほど向けられたあの熱っぽい視線がリフレインして、なんだか泣きそうな気持ちになる。
こんなの、答えはもう、決まってるじゃないか。

「くろこ… 俺も、黒子のこと――…」

もうすっかり藍色になった空に向かって小さくつぶやいた言葉は、急にびゅうと吹き込んだ風の音にさらわれていった。

***

どのタイミングで黒子に返事しようかと考えていたらなかなか寝付けず、寝不足で迎えた翌日。教師の声は耳の上を滑っていくばかりで、午前の授業は半分をうつらうつらしながら過ごしてしまった。
四限目終了、つまり昼休みを告げるチャイムにはっと意識が引き戻される。一晩考えて、今日の昼飯の時間に黒子を誘って昨日の返事をすると決めたのだ。
弁当の包みを持ち、黒子のクラスへ行く。いつも一緒に食べる福田と河原には、今日は用事があるから二人で食ってくれと伝えた。
黒子のクラスの扉の前で一旦立ち止まり、深呼吸をする。ついに開けるべく扉に手をかけようとしたら、先に扉の方がガラリと音を立てて勢いよく開いた。黒子のことで頭がいっぱいだった俺は驚いて思わず声をあげてしまった。

「うわっ!?」
「あ、わり。…って降旗か」

上から降ってきた声に顔を上げると、そこにいたのはよく見知った我が誠凛バスケ部の仲間、火神だった。どうやら購買にパンを買いに行くところだったらしい。俺が教室を覗き込むのを見るとああ、と合点がいったように告げた。

「黒子ならあそこでボーッとしてんぞ。なんか今日は珍しく上の空ってーか…」
「そ、そっか!ありがとう火神!引き止めてごめんな!」

火神に手を振り、黒子の机へと向かう。黒子は窓の外を眺めているようで、表情は伺えない。

「…く、黒子…!一緒に、屋上で、飯食わねえ…?」
「降旗くん…?」

声が震えてしまいそうになったが、なんとか黒子を誘うことはできた。こちらを見上げた黒子はいつもより心なしか眠そうな、ぼんやりとした目をしていた。すこし細められ、眠いからなのかとろけそうな瞳が湛えるのは、あの日以来忘れられないアイスブルー。その中に自分が映っているのが見えて、黒子の目ってすげえ綺麗だなあという感想を抱く。

「あっ!しんどいなら無理に付き合わなくたっていいんだ、また今度でも…」
「いいえ、大丈夫です。体調が悪いように見えたならすみません」

そんなことをおもったのが我ながら恥ずかしくて、それをなかったことにするように、早口でまくし立てるみたいな言い方になった。でも黒子は俺の腕に自分の手を乗せて、行きましょうと言う。俺を見てくるその目の光は、さっきとは打って変わって真剣だった。またどきりと心臓が波打つのがわかって、頬が熱くなる。あああ、このすぐ顔に出る癖、なんとかなんねーかなあ。

「お、おう!ありがとな」

黒子がお弁当の包みを持って席を立ったのを確認して、ようやく俺は黒子と屋上へ行くことになった。

屋上への道のりを歩きながら、どんな話題を振ればいいのかわからなくて黙ったままになる。静かなのは苦手じゃないけれど、いつもとは違う微妙な間に、すこし居心地が悪いというか落ち着かなかった。早く屋上に着いてほしい、そうおもいながら階段を上がっていき、ついに屋上のドアを開ける。
ここに訪れるのは、春にバスケ部の一年生たちで自分の目標を叫んで以来だった。日差しは程よく暖かくて、風もない。またあのときのように、大きな告白をここでするんだという緊張で鼓動が高まってきた。ゆっくりと息を吸って、震える喉を落ち着かせる。続いて入ってきた黒子がドアを閉めたところで、俺は黒子の顔を見据えた。

「黒子っ…!」
「はい」

黒子の名前を呼ぶと、当然黒子はこちらを見て返事をくれる。口元はゆるやかな弧を描いていて、瞳は凪いだ冬の海のように穏やかだった。

「き、っ昨日の、返事なんだけど…さ…」
「俺…俺、…黒子のこと、す、す…!っしゅきだ!」

言え!とおもって言葉に出した瞬間口がすべった。うわあああああなんでこんな大事な言葉噛むんだよ俺のバカあああああ!!!!恥ずかしい。死にたい。黒子はあんなにかっこよく告白してくれたのに。やっと言えたという安堵やら噛んでしまった恥ずかしさやらで耳まで熱くなって目尻に涙が滲んだ。一番かっこつけたい時に決まらないというタイミングの悪い自分を呪いたい。
色々いっぱいいっぱいでぎゅっと目を瞑ったまま顔を上げられずにいたら、ふわりと暖かい体温が俺に寄り添う感覚がした。瞼を押し上げてみると、俺は黒子から控えめに、でも離さないというように抱きしめられていて。ぴたりと触れ合った黒子の左胸からはトクトクと忙しく脈打つ心臓の音が感じられた。

「…っ、うれしいです。まさか、降旗くんから好きだと、言ってもらえるなんて…」
「くろ、こ…」
「正直に言うと昨日僕は、衝動的にこの気持ちを告げたんです。どうしても抑えきれなくて、つい…だからたとえ君の答えがノーだとしても、あれはうっかりしただけで冗談ですとなかったことにしてしまえばいい。そう思っていました」
「でも…やっぱりそんなに簡単に割り切れるような気持ちじゃなかった」

そう言う黒子の声は普段よりすこしだけ震えていた。けれど俺と顔を見合わせると、頬を薄く染めて眉を下げながら、うれしさを隠せないといった様子でやわらかく笑った。

「君が好きです。…恋人として、僕と付き合ってください」
「…っ、はい…!」

俺から告白するはずが、いつの間にかもう一度黒子に告白されていたけれど、返事に迷うことはもうなかった。
そうして気持ちを通わせた俺たちは、ひそやかに降りそそぐ冬の日差しの中、そっと触れるだけのキスをした。


***


それから俺と黒子のお付き合いが始まったわけだが、街で見かけた派手なカップルのように特別ベタベタしたいということもなく、だからといって普通の高校生の男女カップルのように頬を染めながら手をつないで帰るとかいうこともなく。ただ前よりも一緒にいる時間が増えたとかその程度だった。それは黒子がドライだからとかではなく、ただ二人で時間を共有できるだけで十分幸せだったからだ。俺としてはそれ以上何か恋人らしいことをしたいという贅沢を望む気は起こらなかったし、むしろあまり欲張ったら今の幸せな秘密が壊れてしまいそうな気がしたし。
部活も同じ、委員会も同じ。クラスは違うけれど、隣だからすぐに会いに行けるし、会いに来てくれる。朝は待ち合わせして一緒に登校しながら本の話をする。昼休みはお弁当を食べながらバスケの話をして、帰りは委員会のときだけ二人で帰って、時々マジバや本屋で寄り道という名の放課後デート。
夜に二人で歩くときたまに手をつないだり、人にばれないよう、こっそりと唇を重ねたりもした。
そうして黒子と一緒にいる日々を積み上げながら、高校生活三年目の夏もあっという間に終わり、受験勉強に本格的に打ち込むためという理由から俺たち三年生は部活を引退することになった。




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