※ジャンマル←ベント
※ジャンルカ出てきません







きっかけなんて些細なことすぎて忘れてしまった。
それこそ、ジャンルカのいつもの軽口だとか俺の冗談だとかそんなことだったと思う。

それがいつの間にか普段のように笑って済まなかったのは、たまたま俺が練習でミスを連発してすこし苛々していたり、大事な試合前で緊張していたからだったんだなあと、数時間経って幾分冷えた脳みそでようやく理解ができた。

今更、あんなこと言わなければよかったなんてひどく後悔の念に襲われる。

人が、しでかしてしまった事の大きさに気付くのはいつも決まってそのあとだ。
起こってしまってからでは遅いのに、何度繰り返してもそれを学ぶことをしない。
なんて愚かで無能な生き物なのだろう。
わざと敵に食べられて自分の身を犠牲にして、種族の生態を守るヤドクガエルのほうがよほど利口で生産的だ。

俺が投げた言葉がジャンルカにひどく突き刺さったんだろうということは、凍ったようなジャンルカの表情からすぐに読み取れた。
俺はそのまま謝れずに、立ち尽くすジャンルカを置いてきてしまった。
ジャンルカを傷つけたことで傷ついた俺は、みんなの相談役のキャプテンのところでもなく、巧みな言葉遣いで元気をくれるフィディオのところでもない、ベントの部屋に向かった。

なぜか前者二人のところには行きづらかった。

一瞬戸惑ったけれど、遠慮がちに扉を二回叩いてみたら、ベントは快く俺を部屋へ迎え入れてくれた。

「ごめんな、ベント。こんな遅くに」
「いや、構わないが…俺のところにくるなんて珍しいな」
「なんとなくキャプテンとかフィディオのところには行きづらくて」
「それで俺だなんて、光栄だな」
「あはは」
「で、何かあったんだろう?」

俺がどうして来たかについてベントが尋ねてくる。
責めるでもなく急かすでもない、優しい声色に、すこし鼻の奥がつんとなった。

ベントは俺が来たことを不思議がったけれど、全然そんなことはない。
こうして静かに話を聞いてくれるベントは、優しくてあたたかい。

やっぱり来てよかった、そう思いながらぽつぽつとあったことを話す。
途中でベントが用意してくれたホットミルクを飲みながらジャンルカにひどいことを言ってしまったところまで話し終えた。

「それはさすがのジャンルカもグサッときたかもなあ」
「う…やっぱりそっか…」
「まぁ今回はお互いタイミングが悪かったんだろう、仕方ないさ」
「うん、明日ジャンルカには朝イチで謝ることにする」
「なら大丈夫だな」
「ありがとう、ベント」
「どういたしまして」

ベントのおかげで軽くなった気持ちをあらためて反芻してみたら、明日はジャンルカにちゃんと謝って笑顔で話しかけられる気がしてきた。

安心すると人は眠くなるもので、尖っていた気持ちがまるくなった途端、眠気に体を支配される。
抱きしめていたクッションに体を預けながら、うとうとと意識が眠りのふちに落ちそうになる。
「今日はこのままここで寝ていくか?」

ベントのありがたい気遣いに申し訳ないと思いつつも眠気には勝てず、こくりと一度だけ頷いた。

「おやすみ、マルコ」

ベントの優しい声とともに、意識がフェードアウトする。
ベントのあたたかい大きな手が、俺の赤っぽいくせっ毛をくしゃりとまぜた気がした。








とけない角砂糖(沈んだままの恋心)







(…ベント、マルコ来てないか?)
(…いや、)
(そうか、遅い時間に悪かったな)
(すまないジャンルカ、今一瞬だけ…マルコといさせてくれ)




マルコちゃんが好きで
嘘をつくベントさん





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