※家庭教師の女の子と高尾
※名前変換なし




「先生、ここ…どういう意味だっけ?」
「ん?これはね…」

高校に入ってから急に英語が難しくなって、一学期の中間試験がさんざんだったから、という理由で、あたしはこの高尾和成くんの家庭教師として彼に英語を教えることになった。毎週木曜日と金曜日、大学が終わってから彼の家に向かう。それが大抵は大学と家を行き来するばかりだったあたしの日常に加わった新たな項目だ。今日もテキストや彼のために作った英語のプリントを数枚持って行き、いつものように課題をこなす彼を待っていたときだった。

「あっそうだ先生!今度あるバスケ部の練習試合、オレスタメンで出るから応援に来てよ!」
「…えぇっ!?」

勢いよくこちらへ振り向き、いいこと思いついた!というような顔で言う和成くん。思ってもみなかった彼の提案に驚きが先に立って、つい大きなリアクションをしてしまった。あたしが?和成くんの試合を応援に?

「…やっぱ、ダメ?」

椅子に座りながら、横に立つ私を見て話しかけてくる和成くんは必然的に上目づかいになる。ちょっと甘えるように、下からおずおずとお願いしてこられたら、それをだめだと強くはねのけることは出来なくて。…まさかこの子、あたしがこういうお願いに弱いこと知ってたり…しない、…よね?

「…もう…仕方ないな、わかりました」
「うっしゃぁ!先生が来てくれるならオレ次の試合めちゃくちゃ頑張れる!」
「試合もいいけど、ちゃんとこの課題もやらなきゃダメよ?」
「へーい…」

あたしの言葉にころころと表情を変える和成くんをついかわいいと思ってしまう。かなり絆されているなとつくづく感じるけれど、本当、この子は憎めない。

「…じゃあ課題も頑張るから、先生もぜってー応援来てよ?」
「うんうん、行くから」

でもあたしのことを好いてくれているならいいかなあ。かわいい教え子のお願いだし。じゃあ私語もそこそこにと再びテキストへ目線を戻そうとしたあたしに向かって和成くんがもう一言。

「約束な!先生小指、だして」
「…?はい」
「指切りげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、指切った!」
「…ふふっ」
「えっ、なんで笑うの先生」
「だって…指切りなんて小さいとき以来だったから…」
「子供っぽいって?」
「ううん、懐かしくなって」
「なんか先生さー、今日急に予定入っちゃった、ごめんね?とかって感じで約束忘れそうだからこうでもしねーと」
「あたしってそんなに信用ないの〜?ひどいなぁもう」

和成くんの指切りがあまりにかわいらしくて笑みがこぼれる。そこまでするくらいあたしに見にきてほしいのかな、なんて勘違いが生まれそうだ。でもこれは何があっても試合を見に行かなくちゃね。
この仕事上当たり前のことだけど、いつも制服で机に向かって勉強する姿しか見たことがないから、バスケットをする和成くんが見られるのはなかなかに貴重な機会だと思う。…これってけっこうラッキーかも?うれしい。と考えて心がほっこりした。
けれど、はたと気付く。あたしは仮にも和成くんの家庭教師なのに、調子に乗って彼の試合に応援なんか行ってもいいのだろうか。うっかり彼を好きにでもなってしまったら、大きな迷惑がかかってしまう。だって和成くんは少なく見積もったって五つは下。そんなちょっと前に中学校を卒業したようなうら若き男子に手を出すなんて、大人として絶対にダメだ。
だいたい、和成くんはこんなに人懐っこくて性格もいいんだから若くてかわいい女の子たちがいくらでも放っとかないに決まってる。
急に押し黙り、難しい顔でぐるぐると考えるあたしを和成くんは不思議に思ったらしい。

「…先生?」
「え?あぁ…ごめんなさい。じゃあそろそろ続きやろうか」
「うっす!」

…いや、大丈夫だ。いくらこの子がいい子だからってイコール恋愛対象にはならないじゃない。それこそ大人なのに、そのぐらいの線引きが出来なくてどうする。あたしは大人なんだから。そう胸の中に再三、言い聞かせた。



***



和成くんと約束したバスケ部の練習試合の日がついに明日に迫ってきた。
高校なんて卒業して以来、母校にすら訪れていない。どういう格好で行けばいいんだろうとデートでもないのに悩む。まあ制服は着れないから、私服で行くよりほかないのだけれど。
とりあえずお化粧はするけど、めかしすぎないように、パンツとニットで決まりかな。場所は和成くんが通う秀徳高校の体育館だそうだ。おもったよりも近くで安心した。
なんとか明日の準備が終わり、時計を見ると針は12時を過ぎていた。いけない、と慌ててベッドへ潜り込む。遠足を待ちわびる小学生みたいに、楽しみで胸が落ち着かなくてなかなか寝付けなかった。




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