※描きたいところだけぶつ切りです



今日も俺は彼の部屋へゆく。彼が俺を求め、そして俺はそれに逆らう術を持たないからだ。
彼が待つ寝室に向かうこの足はひどく重い。この無価値で生産性のない戯れはいつまで続くのか。頭の中に垂れ込める濁った雲のような思考が、俺の気持ちごと体の動力を蝕んでいく。
しかし気が付けばもう、炎帝こと練紅炎の寝室の前に到着していた。恒例となった扉の前での深呼吸を済ませて、扉を控えめに叩いて来訪を知らせる。今回が初めてではないのに緊張するのはやはり相手のせいだろうか。情けないことに指先がすこし震えた。

「…、誰だ」

すこしの間を置いてから、豪奢な装飾や彫刻の施された重厚な扉越しでも通る低い声が俺の鼓膜を震わせる。俺であることを言えば彼はすぐに俺を中へ招き入れるだろう。いくら俺ひとりが駄々をこねたところで彼がやめると言わない限りこれは終わらない。気を取り直し、返事を告げる。

「白龍です。…伽のお相手に、参りました」
「ああ、入れ」

伽、と口にするとき言葉が詰まってしまうのはまだ自分が割り切れていないだけだと言い聞かせて、彼が待つ部屋へと足を踏み入れた。
金や銀、朱など派手な色で模様が描かれた目隠し用の屏風を横目に、広い寝室の中、椅子に腰掛けて書物を目で追う紅炎殿の姿を見つける。気の抜けた質素な部屋着を身にまとってはいるが、やはり彼からは他者の足を竦ませるには十分な雰囲気が伝わってくる。





壊れ物を扱うように、紅炎殿の大きな掌が俺の頬をするりと撫でるのを甘受しながら思う。彼はきっとただの暇つぶしに俺を選んだのだと。いつもあてがわれる普通の女性では飽きてしまったから。斬新さと意外性のある、でも誰にも文句を言われない立場の、そんな伽の相手が欲しかったから。
そのくせ、まるで本物の恋人へそうするかのように優しく、優しく俺を抱くのだからたちが悪い。女性ならば何人がその暖かく強い腕に寄り添い守られたいと思わされただろう。
俺はもちろんそんな願望など抱くことはない。俺は男であるし、これは義務だから。頭にはそう、理解させたはずなのに。それを改めて思い起こすと胸の奥に暗い影が落ちるのは、心臓を細い紐で締め上げられているような痛みが食い込むのは、彼のその片時の優しさが、ひどく心地よかったからだ。
ただの暇つぶしであるのなら、一層のこと乱暴に扱ってくれればいいのに。たとえ俺が嫌だと喚いても、いくらでも替えはきくし、彼の子を授かりたい者などたんといる。何故、子も孕めない俺にまでその体温をやわらかく分け与えてくれるのだろう。




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