近頃は朝晩の冷え込みがじんと身に染むようになってきている。気づけば城下や屯所の敷地に植わる木々の葉が赤や黄、橙などに鮮やかに色付いていた。
俺はあと何度、この空気や景色をこの身で感じることが出来るのだろうか。そう考えると心に暗く影が落ち、寂しさが身を切るように駆け抜けるのだった。

***

「それじゃあ沖田さん、これが今日の分ですからきちんと飲んでおいてくださいね」
「…ああ」
「あと、秋風は長くあたると身体に障ります…早めに休んでください」
「分かった」

隊士から労咳による息苦しさを抑えるための薬を渡されて、ちゃんと飲むように念押しされる。ついでに必要以上に身体への心配も付け加えられた。
もちろん俺は幼子ではないから出された薬は毎度必ず飲んではいるが、この粉薬の味は正直言ってすごく苦手だ。そのため飲むと心を決めるまでに結構な時間を要するのだが、今回もまた例に漏れずだった。
薬が包まれた紙を手に持ちながら、窓枠に切り取られた闇夜を見つめた。今夜は特別冷えるのか、いつもより空気がぴんと張っているように感じる。
少しかじかみはじめた手で紙を振ってみると、粉薬が中であそぶさらさらという軽快な音がした。俺の気分に似つかわしくないそれをかき消すようにこぼしたため息は、生ぬるい部屋の空気に溶けていった。

***

やはり現代と違って、この時代は夜になると灯りが極端に減って一気に暗くなる。こちらに来て空き家を借り、潜伏してからは遅くまで起きている理由もあまりないし、灯りがついてると怪しまれるから、と日が落ちるなり早々に寝る準備を始めるようになっていた。
もちろんそんなにすぐは眠れやしないので布団に入ってからも翌日の予定や試合の作戦なんかを話し合ったりするが、それなりに時間が経つと大抵の者は寝息を立てていて、自分もその内意識が閉じるというのがここ数日の常だった。
しかし今日はいつにも増して寝つきが悪かった。昼間に出会った沖田さんの横顔が脳裏に焼き付いて、彼と俺はミキシマックスできるのかとか、彼の身体は大丈夫なのかとか、色々なことが目を冴えさせて眠気を遠ざけているのだ。
恐らくこのまま布団にいても朝まで寝返りをうつばかりだろうからどうせなら、と俺は気晴らしの散歩に出かけることにした。

皆を起こさないよう、木でできた引き戸をそっと開けて外に出る。昼間に比べて随分冷えた空気が頬に触れて思わず眉をひそめた。襟巻きをまき直して身を縮める。寒さから身を守ろうとする本能的な行動だった。
往来に出ると、青白い上弦の月が地面や周りの建物などを仄かに照らし出していて、昼とは全く違う町の景色に新鮮さを覚えた。なんだか世界に自分一人になったみたいだ。俺が歩くたびにわらじが土や砂利を蹴る音だけが妙に大きく響いた。





おくすりなかなか飲めない沖田さんに京介が口移しで薬飲ませる話書こう!と思い立ち
オチに口直しでのど飴あげる展開も書きたかったのですが力尽きましたすみません




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