アングラテキサスの決勝戦のことを思い出すと正直苦い記憶しかない。勝負に負けてしまったことはもちろんだけど、それを遥かに凌駕するくらいの出来事があったからだ。
繊細な乙女心が瞬く間に粉々にされて、その破片さえも相手への怒りで燃えてなくなってしまった、最悪な出来事。
あの男が熱心に視線を注いでいた相手がまさかヒロだったなんて!信じられないもいいところよ。もちろんヒロはちっとも悪くないわ、百パーセント悪いのはあのホモ野郎よ。名前さえ言いたくないわ。
何が悔しいって、あんなナルシストホモ野郎に一瞬だってときめいてしまった自分の心。わたしの大事なときめきを返してよ!と泣きたいのと怒りたいのが混ざった複雑ながっかり感で胸がいっぱいになったあの時のことは、忘れたくても忘れられない。今だって思い返しながらむっつりと頬がふくれてしまう。

ああ、早くあんな男よりもいい男を見つけて、この忌まわしい出来事を記憶とともに抹消してしまいたい。先ほどからメンテナンスを行っていたジャンヌDの駆動部の調子を確認しながらそう思っていたら、不意に細長いものが頬についと押し当てられた。この感触は、指…?
慌てて振り向いてみれば、そこには驚いた顔のジンがいた。少し視線をずらすと、恐らくはわたしの頬に触れただろうと思われる突き出されたままの人差し指。

「え、?」
「あっ、ああ、すまない…」

いつもの落ち着いた振る舞いが嘘のように、切れ長の赤い瞳をぱちくりと瞬かせるジンはなんだかかわいらしく見えた。

「…何というか …その、むくれる君が、…かわいらしくて、 だから、つい……触りたく、なってしまったんだ」

心なしかジンの顔が赤いような気がする。もごもごと濁しながら言われた内容に今度はわたしの方がきょとんとする番だった。ようやくそれらを理解したその途端、耳まで熱くなる。ジンに触れられた頬が、熱い。
ジンが、わたしのことを、かわいい?

「うぁ、えと…あの、」
「でも」

そこで言葉を切ると改めてこちらへ向き直り、まっすぐわたしを見据えてからジンは続けた。

「やはり君は笑っている方が素敵だと、僕は思う」
「え …?」

そう言い終えて控えめに笑ったジンがとてもかっこ良くて、胸の鼓動が速まるのを抑えられなかった。あまりにもストレートにわたしへ伝えられた言葉が恥ずかしくて、顔にまた熱が集まる。今のわたしはきっと顔が真っ赤になっているに違いない。
恥ずかしさが先にたってしまって、言われたことへの冷静な受け答えが出来ないまま俯く。ジンの顔がまともに見れない。




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