※名前変換はなし
※家が花屋をいとなんでいる女の子と葉山のお話



今日も早朝から起き出して、市場へ花を仕入れに行くために支度をする。うちのような商店はサービス業だから、会社で働く人たちと違って土日祝日が休みになるとは限らない。母は幼い妹の世話があるから、わたしがしっかり家の仕事を手伝わなければ。

父と共に市場から仕入れ持ち帰ってきたばかりの花を、水を入れた大きな容器にさしてやり、小さな店の中へ配置していく。大きさも形も色も香りも様々な花たちが、瑞々しい葉や花弁を広げ咲き誇る様子を見ていると、日々大変な思いをしながら世話をしているかいがあるなと思う。手をかけた分だけ、植物は必ず応えてくれる。だからわたしは、たとえば冬場に冷水で花の茎を洗う必要があっても、硬い刺や葉で手指が傷ついても、植物を愛おしいと思えるのだ。

朝の花の世話を一通り終えると学校に行く準備をする時間が近づいていた。わたしは手早く着替え母が用意してくれた朝食を食べ終えた。時計を見るとまだまだ始業の予鈴には余裕がある。いつもならばもう少しゆっくりするけれど、今日はなんとなく気分が良かったのもあり、鞄を持って早々に家を出ることにした。

***

学校に着くと、時間がかなり早いせいかまだ生徒が殆どいないようで、下足場はしんと静まり返っており、放課後とはまた違った朝独特の澄んだ空気が流れていた。誰ともすれ違わず廊下を通り教室へ向かい扉に手をかけ開ける。誰もいないことはわかっていたけど、一応おはよう、と軽く挨拶をしたら、誰もいないものだと決め込んでいたこの耳に返ってきた明るい声にわたしは思わず肩を跳ねさせた。

「おー、おはよ!早いじゃん!」
「うわ、って葉山くん…?おはよう、人いないと思ってたからびっくりした」
「ゴメンゴメン。オレバスケ部の朝ミーティングあってさー、早くに終わったから時間余っちゃって」
「ううん大丈夫。そうなんだ、さすがうちのバスケ部。そんな早くからミーティングあるなんてすごいね」
「早起き苦手だから眠いけどねー、バスケ好きだからさ!」

すでに教室にいた人物―クラスメイトの葉山くんは軽く謝罪を述べると、人懐こそうな笑みをこちら向けてきた。なんだかひまわりみたい。
わたしは話しながら荷物を置くと、教室に飾ってある花瓶を目で探す。ああ、あったあった。前まで花の水替えは日直の仕事だったけれど、忘れられることも多かったようでわたしが気づくたび替えていたら、いつの間にかクラスの花の世話はわたしの役目と暗黙でみんなに広がったらしい。先生からあなたが花の水をこまめに替えてくれるようになってからお花が元気なのよ、と言われ嬉しくなったのも記憶に新しかった。

「へー、花の水_がやってたんだ?スゲーね、毎日それやってんの?」

教卓に花瓶を移動させたわたしのそばにいつの間にか来ていた葉山くんから興味深そうに言葉をかけられそちらへ振り向く。も、その距離の近さに反射的に花瓶へと向き直り込み上げる照れに半ばごまかすように言葉をこぼした。

「ええと…!うん、家が花屋なのもあって、花好きだから…」
「へー!家花屋なんだ?花屋って大変?」
「え…、なんでそう思うの?」

彼から出た意外な言葉にわたしは一瞬止まり、不思議に思って背の高い彼をもう一度振り仰ぐ。大抵は、綺麗な花に囲まれて生活って羨ましいとか、女子の憧れる職業だとか、当然とはいえ本来の大変さを知らないゆえに表面上だけで羨ましがられることが多かったので、まるで知っているかのような彼の言葉に驚き思わず疑問を投げかけていた。すると葉山くんは何のためらいもなく、わたしの絆創膏だらけの手を取り、こちらの疑問へ答えた。

「だってさ、手。絆創膏いっぱいだしいっつも傷だらけだからなんでかと思ってたんだよね。そしたら花屋って言うからそれかなーって」

わたしより一回りも二回りも大きな、きっとバスケの影響だろう豆のあるあたたかい掌に、同い年の他の子に比べたら随分と荒れたわたしの手を大事そうに包まれながら言われ顔に熱が集まる。うわ、どうしよう、耳まで熱い。彼はそんなつもりで言ってるんじゃ、きっとないのに。
どんどん大きくなっていく心臓の音に余計恥ずかしくなってつい下を向いたけれど、それでも握られた手だけは離せないまま、もう少し、彼とこのままでいたいと思ってしまった。




きみの手(この手できみに、触れてもいいの?)

好きな子には無意識に見て触ってくる葉山ありだと思います!!



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