温かいコーヒーをいれたマグカップを二つ、砂糖とミルクも添えて、リビングで待つ伊月先輩の元へと持っていく。そうだ、マグカップを置いたら、昨日買ってきたお菓子も取ってきて一緒につまもう。
リビングの扉を開けて中に入ると、先輩はソファに座っていた。ソファの背からちょっとだけはみ出して見えている先輩の頭がなんだかかわいい。思わずくすっと笑いがこぼれて、それに気付いた先輩がこっちを振り返る。

「なに笑ってたんだ?」
「いえ、なんでも」

真っ黒な髪と同じ、真っ黒な瞳が俺をまっすぐに見つめてきて、心臓がドキンと大きく波打った。
テーブルに湯気の立つマグカップを乗せたトレーを置いて、先輩の隣に腰を下ろすと、先輩が後ろから俺を抱きすくめてきた。シャツの裾から入ってきた少しだけ冷たい掌に肌を撫でられる。爽やかなミントの匂いが、麻薬のようにくらりと俺の意識を狂わせる。

「っせん、ぱい…、コーヒー」
「大丈夫、冷めてもちゃんと飲むよ」

にこりと優しく細められた目元とは裏腹に、伊月先輩の手つきは性急で、俺の胸を撫でていた左手は下に降りてくるとズボンのチャックを下ろして、下着の中をまさぐる。気持ちのいいところを知り尽くされた俺のペニスは先輩の手に擦られて、あっという間に絶頂まで上り詰めた。

「せん、ぱ… っは、あぁっ…!や…!だめ、っあ、ぁああああ…!」
「…フリ、溜まってた?」

先輩が掌にべったりとついた俺の精液を見せながら言う。表情は見えないけれど、多分少し意地の悪い顔をしてるんだろう。

「…悪いですか」

恥ずかしさからつい拗ねたような口調になってしまった。

「ううん、悪くない。俺とするの待っててくれたんだろ?」
「…忙しかったし、抜く暇がなかっただけです」

先輩には全部お見通しらしい。こんな小さな言い訳なんかとっくにばれているのに、どうしても強がるみたいな言い方になる。でも先輩ははは、と笑って、俺の髪と項に優しくキスをした。それだけで俺の心臓はぎゅっと痛くなって、なんだか涙が出そうだ。

「じゃあ久しぶりだから、今日はうんとべたべたしようか」

ないしょ話でもするみたいに耳元でささやかれて、身体の芯にじんと火が灯る。先輩と会えない間はあんなに冷えきっていた身体が、ほんのちょっと先輩がさわっただけで火傷しそうなくらいに熱くなる。

「先輩は、ずるいです…」

伊月先輩の、声も、瞳も、指先も、唇も、髪も、匂いも。
ぜんぶ、俺を身体の内側から揺り起こす、あまいあまい媚薬なんだ。
会えない時間が長いほど、焦がれて、会えたとき余計に囚われて、離れがたくなる。先輩をもっと好きになって、もっと欲しくなる。

「そんなこと言って、俺を煽ってくるフリだってずるいよ」

そう言う今の先輩の顔を見たくなって振り返ると、先輩は困ったような、でも笑ってるような、少し泣きそうにも見える顔をしていて。そんな伊月先輩の頬を両手で挟んで、瞼と唇にふれるだけのキスをしたら、先輩はくすぐったそうに笑った。

「会うたびにフリがかわいくなってくから、どんどん帰したくなくなるんだ」

今度は先輩の指先が俺の頬をゆっくり撫でて、噛みつくみたいにキスをされた。

「っ…ん、…ふ、ぁ…っ ん…」

熱い舌が口の中をぐるりと舐めて、丁寧に歯と歯茎をなぞっていく。その内先輩の攻めに負けた俺の舌は捕まって、ちゅっと音を立てて吸われる。いつか口の中にも性感帯があるらしいと聞いたことがあるけれど、どうやら本当のようだ。先輩に深いキスをされたあとは、決まってぐったりと意識が蕩けてしまうからだ。
はあはあと肩で息をしながら、気付いたら俺はソファに押し倒されていて、先輩が俺の上にしっかり跨がっていた。

「こんな欲張りな俺に、幻滅した?」

なんだ。先輩も、俺と同じだったのか。

「いいえ。うれしかったです、すごく。先輩も、俺のことそんな風におもってくれてたんだなって」

おもわずふにゃりと頬が緩んでしまうくらい、うれしい。
先輩の余裕のなさそうな顔も、いつもより少し荒い指先も、汗ばんだ肌がくっつく感触も、俺だけのものだとおもっていいんだから。

***


「あ…っ!ぁ、せん、ぱっ… …ぁ、あ っ はぁ…!」
「っ、く… 光樹…!」

がくがくと揺さぶられながら、気持ちのいい場所を激しく穿たれて、目の奥で星が散る。さっきから喘ぎっぱなしで、口の端から涎がこぼれた。そんな中、先輩が掠れ気味の声で切なげによんでくれた俺の名前がはっきりと耳に残った。
先輩の猛りが無遠慮に俺の中を行き来する度に、溶けそうなほど熱くて気持ちいい。いやらしい水音と肌のぶつかる音が鼓膜を揺らして、さっきより俺のお尻の穴がきゅんと震えた。

「光樹… 俺の、こと、っ… 俊って、よんで?」
「っ、え…?」

今日の先輩はなんだかいつもより甘えたな気がする。そういえば、俺、伊月先輩のことを名前で呼んだこと、まだないかもしれない。

「しゅ、ん…?」
「うん?」
「俊…っ だい、すき です…!」
「ば、っ〜…!んな…かわいいこと言われたら、止まれないだろ…!」

先輩が笑って、俺をぎゅっと抱きしめた。肩口にさらりとかかった黒い髪の毛がくすぐったい。
止まらなくたっていいです。俺の全部で先輩を受け止めさせてください。直接は言えないけど、そんなおもいを込めて、俺より少し広い先輩の背中を抱きしめ返した。




エッチな月降読みたい!と思いつきで書き殴ったのでまとまりがありません。
あと予想以上に甘くなりました。やっぱり自分が甘いの好きだからかもしれない。




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