部活のとき、授業のとき、家でくつろいでいるとき、エトセトラ。エトセトラ。火神くんが片時も離さず首に下げている、すこしメッキの剥がれた古めかしいそれ。いつ見ても決して外されたことのないそのリングペンダントは、自分を飾ることにあまり頓着しない火神くんが唯一身につけているアクセサリーだ。彼の兄貴分でありかつての友人だった氷室さんとの思い出のつまった大切なものである。

「…僕も、証がほしい」
「あ?」

放課後のマジバで、いつものようにたくさんのチーズバーガーを次々に食べる火神くんを眺めながら、僕はたった一杯のバニラシェイクをすこしずつ飲んでいた。
いつか先輩が言っていたように、リスが食べ物を頬袋に詰めこむかのごとくひたすら咀嚼をくり返す火神くんに、そんな僕のぽつりとつぶやいたひとことが聞こえるはずはないと思っていたのに。彼の耳はとてもいいらしい。それに少なからず驚きつつも、今度はちゃんとわかるようにもう一度火神くんへ説明する。

「僕と君が、相棒であるという証が、目に見える形でほしいんです」
「なんだそりゃ?」

相棒、とは言いつつも、それは単なる建前だ。本当は火神くんにひっそりと、相棒や仲間以上の感情を抱いている。本当は懇ろな間柄になれたならそれが一番うれしいのだが、仲を深めたいと思う僕に対して今の心地よい関係を壊したくないと喚く弱虫な僕が待ったをかけるので、心中はいまだ膠着状態だ。
だが今回は火神くんとより進んだ関係になりたい方の僕がすこしばかり勝ったので、僕と火神くんをより結びつけるべく相棒の証を手に入れたいと言い出すに至ったのである。

「ほら、君は氷室さんと、兄弟の証としてリングペンダントを共有してるじゃないですか。だから僕も、君とお揃いの何かを、相棒である証として持っておきたいんです」
「ああ…別にいいけどよ、なんか照れんな、『相棒』って」

そう言って唇の端にバーガーのパンくずをつけながらへへっと照れくさそうに笑う火神くんがかわいくてどぎまぎさせられる。こういう不意打ちはすごく心臓によくない。僕は人に比べて感情表現が乏しい方であるが、それを今ほどありがたく思ったのは初めてだ。うるさい心臓に手を当てて落ち着かせつつ、顔は何もない風を装った。

「君は僕の光で、僕は君の影ですから」
「またそういう恥ずかしいことをサラッと言うなよ!」
「…別に僕は恥ずかしくありませんが」
「オレが恥ずかしいんだよ!」

もともとポエトリーな表現は好きだが、それを決まって恥ずかしがる火神くんが見たいから、という理由で言うんだと知ったら彼は怒るだろうか。

とどのつまり、僕は火神くんが氷室さんからもらったリングを肌身離さず身につけて彼を思い出していたように、僕が彼にあげたものを見て僕のことに思いを馳せてほしいのだ。
僕との誓いと、約束と、関係を、いつもその手に持っていてもらいたい。そしてそれで火神くんを捕まえておきたい。平凡で影が薄い僕の、ちっぽけな嫉妬と醜い独占欲である。
だってそうしないと、綺麗で自由な火神くんはいつか僕のもとを離れてもっと高いところへ飛んでいって戻ってこなくなってしまうような気がしてならないからだ。

残りわずかになったシェイクをすすり、さて何を贈ろうかと思案する。出来ればそのリングのように、身につけられるものがいい。彼の体の一部になるくらいに馴染んでもらいたいから、火神くんに似合うデザインや色を選ばなくては。この独占欲が大っぴらに認めてもらえたことで鼻歌でも出そうなくらい上機嫌になった僕は、再び食べることに戻った火神くんを眺めながら、週末に火神くんを誘ってアクセサリーを見に行く計画を考えることにした。



ようやく黒バスのおはなしが書けました、黒→火です
この時点ではまだくっついてませんが、くっついたら黒火になります




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