偶然通りかかった店の表に並べられていた、それ。
女子が指先を華やかに飾るための、かわいらしい形の小瓶に入った、鮮やかな色をたたえる化粧道具。僕の目に入ったのは、派手な強い赤でも、冷たく鋭い青でもなく、あたたかみをそなえ、尚且つ活発さも感じる黄色のそれだった。

勝ち気で明るい彼女に似合うんじゃないかとふと考えてから、自分の安直すぎる脳内の図式を慌てて打ち消す。黄色イコールあいつだなんて誰が決めたんだ。いくら誕生日だからってこんな化粧品を、しかも僕がプレゼントしたらバカにされて笑われるのがオチだ。
頭を振って必死に考え直そうとするけれど、指先に可憐な黄色を乗せて微笑む彼女の顔の想像がはがせない。くそっ、なんであんな暴力女にこの天才の僕が振り回されなきゃならない?
心で悪態をつきまくりながら、結局僕はその店で小さな黄色のマニキュアを購入した。店員にプレゼント用ですか?とにこにこしながら聞かれて、まさか自分が使いますなんてそんな気持ちのわるい嘘はつけないので、渋々頷かなくてはならなかった。ああ、思いきり恥をかいた気分だ。
細いリボンがかけられ、かわいらしくラッピングされたそれを、僕は手のひらで持て余しながら帰ることになった。

***

数日後、ついにその誕生日がやってきてしまった。だが僕からわざわざあの女に誕生日プレゼントを渡してやる義理もない、と捨ててしまうこともできたのだが、僕は自分が金を出してわざわざ買ったものを簡単に捨ててしまえるほどの潔さは持ち合わせていなかったので、やはり渡さないという選択肢は選べなかった。自分のこの勿体ない精神が憎い。
もはや渡さずには終われないのだ。ここは腹を括って、さくっと渡して帰ってしまえばいい。これがあいつの手に渡ってからなら、捨てられようがどうされようが構いはしない。
一瞬、あの女がこれをいらないと捨てる想像が頭をよぎって、ずきりと胸が痛くなった気がした。気がしただけだ。
クルーク、ここで踏ん張らなくてどうする。そう自分に言い聞かせて、僕はラッピングされた小物をひっつかみ家を出た。

***

さくっと、淡々と渡せばいいんだと思いながらも、人の目があっては怪しまれるとか、自分からラフィーナを呼ぶのは気に入らないと微妙なプライドが邪魔をしたりだとか色々なことが重なって、なかなかラフィーナに接触するチャンスが掴めずにいた。そうこうしているうちに、アミティやシグ、リデルなんかからおめでとうの言葉とともにプレゼントももらい、ラフィーナはうれしそうに顔を綻ばせていて。僕から渡さなくたって、もうあんなに満足そうじゃないか。そんな諦めとすこしの寂しさが混ざった感情が胸の奥をちりと痛ませた。
僕が数日前、店の前であれこれ悩んだあの時間から、もうすでに無駄だったんだ、僕は馬鹿だな。
ラフィーナから背を向けて、手に握り締めていたせいであたたかさの移った小さな包みを捨てようとした時だった。

「ちょっと!何らしくもなくしょぼくれてますの?何か拾い食いでもなさって?」

後ろから高飛車な声が飛んできた。僕の気も知らないで、相変わらず失礼な女だな。

「僕がどういう気分だろうと、君には関係ないだろう」
「関係ありますわよ。だって今日はわたくしの誕生日ですのよ?おめでとうくらい言うのが礼儀ではなくって?ま、あなたからその様なことは期待していませんけれど…」

ほんとこの女は人の神経を逆撫でしてくる天才だと思う。今日が君の誕生日なことも僕は知っていたし、プレゼントも用意していたんだぞ。何も知らないで僕を見くびりやがって…
投げやりな気持ちがイライラにすり替わり、気付けば僕はラフィーナの手首を掴んでいた。彼女が止める声も無視して、ひたすらぐいぐいと人気の少ない裏へと引っ張ってきた。

「ちょっと、もう、なんですのいきなり…!」

不満を顔に滲ませながらも、僕の手を振りほどかなかったことと、掴んだ彼女の手首が思いのほか細かったことに驚きつつも、僕は本題に入ることにした。

心の中で深呼吸をして、ラフィーナの目をまっすぐ見つめる。そして言葉を発した。

「…これ。君が今日誕生日だって知ってたさ。…まぁ僕からこんなものプレゼントされても気味が悪いだろうけど、一応君に買ったものだから受け取ってもらえないと困るんだ。だからとりあえず受け取ってよ」

知ってたさ、とまで口にしてから急に恥ずかしさが込み上げてきて、あとは畳みかけるように適当な言い訳を並べながらプレゼントの包みを押し付けた。あとは帰るだけだと踵を返そうとしたら腕を掴まれて。
言わずもがなそれはラフィーナの仕業であることはすぐにわかったけれど、彼女がどんな顔をしてるかまでは予想しきれなかった。
目の前の彼女は、片手で包みを大事そうに胸元に抱え、片手で僕の腕を掴みながら、耳までりんごのように赤く染まった顔で僕を睨んでいた。

「…っ、ずるいですわ…!こんな、不意打ち…クルークのくせに…」

想定しなかった反応に、鼓動が大きく跳ねる。け、決してかわいいとかそんなことは…!そう慌てたあとにはたと思う。もしやこれは僕の勝ちなのではないだろうか?ここは余裕を見せながらラフィーナの反応を楽しむとしよう。そう結論づけて、彼女に包みを開けるよう促した。

「それ、開けてみてよ」
「え、ええ…」

かわいらしい包みの中からあらわれた黄色いマニキュアの小瓶を見て、ラフィーナは目を丸くしたあとうれしそうに顔を輝かせた。それを眺めながら僕は清々しい気持ちに満たされていた。

「な、なによ、さっきからこっち見てニヤニヤして…気持ち悪いですわよっ」

どんな悪態をつかれても、顔が赤いから憎らしさも迫力もないということに気付かないのだろうか。
今日だけは気分がいいから、その憎まれ口も全部許してやることにして。意地を張らないでちょっと素直になるのも、たまには悪くないなと思うのだった。

後日、ラフィーナが早速僕のプレゼントしたマニキュアを塗ってきてうれしそうに微笑むのを直接目にしてしまい、心身ともに大きく動揺させられたのはまた別の話。




最近ぷよクエにハマり、知ったキャラたちがかわいくて書いてしまいました
クルークとラフィーナの意地っ張り組かわいい




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