アクティア王国へと向かうこの船は、ゆっくり海上を進んでいく。波は穏やかで吹き抜ける潮風も優しく、まさに航海には打ってつけの天候だった。
アリババ、アラジン、モルジアナ、白龍がそれぞれの目的地へ向かうためにはアクティア王国を経由する必要があるため、四人は途中まで同じ旅路を行くことになった。

船がシンドリアの港を出てからしばらく進むうちに陽が落ちて夜の帳が下りたので、アリババたちは夕食を取った後、割り当てられた船内の客室で休息を取っていた。
それぞれこの先の身の振り方や様々なことを話し合ったりしていたが、アラジンがあくびをひとつしたのをきっかけに、アリババが明日起きれなくなるのは困るからと就寝を促したのだった。

部屋にはハンモックが二つとベッドが一つ備えてあり、あとからアリババが加わったため寝る場所を決め直すことになった。アラジンが腕を組み、小さく唸る。

「うーん…どうしようか?」
「あの、私が床で寝ましょうか」
「いやいやいやそれはダメだろ!」
「そうですよ!女性を床に寝かせるなんてそんな罰当たりなことは出来ません!」

そこでモルジアナが涙ぐましい提案を思いついたが、アリババと白龍が全力で却下する。アラジンも大きく頷いた。

「モルさんが床に寝る以外で何かありそうかい?」

アラジンの質問にモルジアナが客室内をきょろりと見回してから、あ、と閃いたような顔をする。

「このベッド、二人までなら寝られそうに見えます」

控えめだが芯のある響きを持ったモルジアナの声が、気付いたことを静かに述べた。アリババも同じ方を見て確かに、と頷く。

「てことはベッドに誰か二人寝れば全員同じ部屋で寝れるんだな?」
「さっすがモルさん!気付いてくれてありがとう!」
「いえ、そんな大したことでは…」

アラジンが喜んでお礼を口にする。モルジアナは少し照れくさそうだ。

「では誰と誰がベッドに寝るか決める必要がありますね」

白龍が考え込むようにぽつりと言う。一番の問題は晴れて解決したが、第二の選択がまだ残っていたため四人は再び頭を突き合わせて相談する形になる。
寝床として設けられているハンモックの内一つは子供用なのかあまり大きくなかった。

「このハンモック小さいねえ…」
「じゃあアラジンがそこでいいんじゃねえか?」
「いいのかい?」

アラジンは自分が一番に寝床を決めてしまってよいのか、と遠慮がちに目で問うた。それに対しアリババや白龍は首を縦に振る。

「もちろんですよ」
「てかお前しかそこには寝れなそうだしな」

アリババは笑いながら付け加えた。アラジンは再びお礼を告げる。
その後もう一つのハンモックはモルジアナが寝ることに決まり、最終的にアリババと白龍がベッドで一緒に寝ることになった。モルジアナがアリババの寝相の悪さとアリババ臭への不満をぼそりとつぶやいたため、白龍がハンモックを全力で勧めたのだ。
寝床の割り当ても決まって、部屋の灯りを落とす。アラジンがおやすみと告げて、それに続けて残りの三人もそれぞれおやすみを言い合った。




皆が寝静まってしばらく経ったころ、ふと目が覚めたアリババは用を足そうと起き上がった。まだ夜は深いようで、灯りのない室内は真っ暗だ。他の三人の寝息と、船が海を滑る波音だけがアリババの鼓膜を心地よく揺らす。足元のランプも、船が揺れた際に万が一油がひっくり返ると引火して危険だからという理由で火は消されていた。
アリババは覚醒しきっていない意識のまま、緩慢な動きでベッドから立ち上がろうとした。すると急な横風に煽られたようで、風の音とともに船が大きく揺れ動いた。

「う、わ…っ」

その拍子にアリババはバランスを崩し、白龍の上にのしかかるように倒れ込むことになった。そこまで勢いはついていなかったものの、弛緩した無抵抗な状態の白龍の身体の上に覆い被さってしまい、白龍が不測の衝撃に本能的な声を上げる。

「うっ、んん!?」
「ご、ごめ…!わ、ぁっ…!?」

慌ててアリババが謝罪の言葉を発しようとしたところで再び船が揺れ、アリババは倒れないよう白龍の身体の上に手をついた。そこは妙に柔らかく、今のことで完全に意識が冴えてしまったアリババは違和感を覚える。

「ぅ あぁ…っ!や… めて、くだ…さ…っ」

白龍が言いにくそうにアリババに懇願する。もしやとアリババは指先に感覚を集中して暖かいそこを布越しに撫でてから自分のしでかしたことを理解した。あろうことかアリババは白龍の股間を刺激していたのだ。

「わああごめん!」
「っいえ…」

急いで手をそこからどけて赤くなりながらアリババは謝った。白龍の色を含んだ声がまだ耳に残っていて、リフレインされるたびに心臓が高鳴る。白龍は乱れた服を直しながらも再び寝直そうとする様子が見られない。白龍が黙ってもう一度寝たのならアリババも寝直すのだが、白龍は起き上がったまま俯いている。そんなに機嫌を損ねてしまったのか、とアリババは不安になった。おそるおそるもう一度謝ってみる。

「ご、ごめんな、白龍…」
「…大丈夫、です…」
「そ、そか…?ならいいんだけどさ。…あ、俺トイレ行ってくるわ!」

しかし白龍の返事の歯切れはどうにも悪い。窓から差す僅かな月明かりでは白龍の表情まで窺えず、感情が読めない。アリババはこの気まずさゆえこれ以上この場には居られない、居たくないと思った。そして用を足すという本来の目的を理由にこの居づらい空間から抜けることを決め、そそくさと部屋をあとにしたのである。

アリババが出ていったことで再び部屋は窓の外の海原と同じように静かになった。白龍は詰めていた息をゆっくり吐き出してようやく安堵する。今の白龍の状況はどうしてもアリババにばれるわけにはいかなかった。不可抗力とはいえ、先ほどアリババに股間を刺激されたせいで情けないことに自身が少し勃起してしまったからだ。
男という性別である以上仕方ないことではあるがやはり恥ずかしさが先に立つ。しかし、女性とあまり縁もなく特にシンドリアでの留学期間中はそれどころではなかったため、すっかりご無沙汰になっていた白龍のそれは少しのきっかけでも勃ってしまうほどに溜まっていたのが事実だった。
長い間内に押し留めていた性欲はどうしても収まりがつかず、白龍は仕方無くアリババがいない今の隙に、浅ましく首をもたげる熱を慰めることにした。

ゆっくりと息を吐きながら下穿きをずらして、震える指先を熱の中心に伸ばす。自慰のやり方なんてほとんど無知に近いけれど、聞きかじったわずかな情報から白龍はそれを少しずつ快楽の高みに上らせていく。人差し指と親指を輪の形に丸めて、下から上へと絞るように扱いた。ぞくぞくと背を駆け上がる甘い痺れに、だんだん手の動きが早まる。

「んっ…!は……っ …ぅ、 あぁ… っ… んぁ…」

白龍はあまりの気持ちよさに頭の中が真っ白に塗り潰されたように何も考えられなかった。膝を震わせて、蜜をこぼす自身を夢中で宥めすかす。先走りのぬめりが絡みついて粘着質な音を立てるのがさらに白龍の興奮を煽った。




しばらくトイレに籠もっていたアリババは、そろそろ白龍は寝ただろうと見越し、静かに客室へと戻ってきた。そっとドアに手をかけたところで、ふと押し殺したような荒い息づかいが鼓膜を揺らす。アリババは疑問を感じながら木製の簡素な造りのドアに耳を押し当てた。静かなはずの空間に響くかすかな水音。それとともに聞こえる途切れとぎれの言葉を成さない上擦った母音の羅列。まさか。よくない予感と冷たい汗がアリババの背中に伝う。心臓の音がみるみるうるさくなっていった。
ドアを開けられないまま、アリババは泣きたいような気まずいような気持ちで、ドアに張り付いて固まらざるを得なくなった。さらにアリババの方も白龍の甘い声につられてうっかり元気になってしまったようで、アリババは溜め息をつく。これはもう完全に白龍のせいだ。そうでなければ自分はさっさと用を済ませて平和的に眠りにつけたのに。そう言い訳を並べて、半ばなげやりな気持ちでアリババはドアを開けた。




控えめだが突然ひらいたドアの蝶番が軋む音に、白龍は大げさに肩を揺らした。アリババがその内戻ってくることを完全に失念していた白龍は自分の行動を見られてしまったことで混乱してぴたりと思考回路ごと動きが止まってしまったのだった。
アリババはそんな様子に構うことなく白龍の細いながらも鍛えられてしなやかな筋肉のついた腕をがっしりと掴み、ベッドから引きずり下ろすようにぐいと自分の側へ引っ張った。脱ぎかけた下穿きのせいで足を縺れさせながらもなんとかこちらへ着いてきた白龍とそのまま部屋の外へ連れ立っていく。白龍はアリババに自慰を見られた恥ずかしさよりもこれから何をされるかの不安の方が心を占めたのか、押し黙ったままのアリババに尋ねた。

「っアリババ、どの…!一体どこへ…!」

アリババは白龍の言葉など聞こえていないかのように何も答えなかった。少し歩いてからアリババは立ち止まり、再びドアを開ける。どうやらそこは隣の空いた客室らしく、中にはベッドが三つほど並んでいるのが窺えた。そこでようやくアリババは振り向いた。白龍の目を、いつもより幾分熱を帯びた視線でまっすぐに見つめながら言葉を紡ぐ。月の光を受けて煌めく金色の瞳が白龍を射るように見つめた。

「…白龍。…おまえが、誘ったんだからな…!」

アリババの言葉を飲み込めないまま、白龍はその部屋のベッドへ乱暴に倒された。間髪を入れずにアリババが白龍の上にかぶさってきて口を塞がれる。

「な…どういう意 …ん、ん っ!?」

聞き返すことも出来ないまま、白龍はアリババからの些か乱暴な口付けを受け入れるしかなかった。腕は頭上でひとまとめに掴まれて、体重もかけられているため全く解けない。口の中を緩急をつけながらアリババの熱い舌が行き来して、頬の内側や歯茎の付け根を撫でていく。その度に肩が震えて、萎えかけていた自身がまた熱を持ち始めるのを感じた。

「んぁ…っ !あ、あり、ば っ… ん、ぅ…」

静かな部屋に二人分の荒い呼吸と、唾液の混ざり合う音が染み込んでいく。簡素な作りのベッドが、本来耐えられる以上の重さを受けてぎいと軋みをあげた。アリババはようやく白龍の唇を解放し、自身の口を手の甲で拭う。白龍は肩で息をしながらやっとの思いで酸素を体の中に取り込んだ。

「、は…っ はぁ…」

白龍が息を整え終わらない内に、アリババは白龍の薄い寝間着の合わせに手をかけ割るように開いた。腰の帯は緩かったのか、かろうじて引っかかってはいるものの既に寝間着を留める役割を果たしてはおらず、あっという間に白龍の薄い胸はアリババの前に晒された。小窓から少し入る月明かりが、白龍のまだ成熟し切らない線の細い肢体をぼんやりと浮かび上がらせる。
アリババの視線が白龍の身体に縫い付けられる。肩から落ちた薄い寝間着、とろんと細められ潤んだ瞳。仄かに朱が差した頬、シーツに散らばるなめらかな髪。そのどれもがアリババの欲を駆り立ててたまらなかった。無意識にアリババはこくりと唾を嚥下していた。

「…、えろ…」

アリババはそう小さくつぶやいて、先ほど脱ぎかけていた白龍の下穿きを大きくずらした。




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