ポッキー&プリッツの日
河宮と遊海


「なあなあ遊海、今日はポッキー&プリッツの日だって知ってたか?」

きらきら、という擬音さえ聞こえそうなほどに顔を輝かせながら、相変わらず先輩に敬語が使えない後輩、もとい河宮が得意げに話しかけてくる。
他の部員はちゃんと先輩とかさんとかをつけて、たどたどしいながらも丁寧語を使ってくれるのに、河宮はいつになったら年上に敬語を使えるようになるのかとため息が出た。丁寧語のひとつも使えないでこれから先どうするのだろうかと変な心配までしてしまう。
話が逸れたが、本日十一月十一日がポッキーの日であることは行きつけのスーパーでしょっちゅう広告を見かけていたから知っていた。その日にかこつけてかいつもよりも安い値段で、様々な種類の細長い焼き菓子のカラフルな箱や袋が山積みになって売り出されていた光景を思い出す。そういえば長らく買ってなかったなあ。

「うん、知ってるよ」

そう返事すれば、河宮はなあんだとすこしつまらなそうにぼやいた。話はこれで終わったのだろうかと河宮のもとを離れようとしたら手首を掴まれて制止される。

「あっ、待てよ!まだ話は終わってねえんだぞ」
「…?」

これ以上何かあるのかと思ったがそんな大層なものではないだろうし、聞いてやりさえすれば気が済むならいいかと河宮の方へ向き直る。俺が振り向いたことに気を良くしたのか嬉しそうに再び口を開いた。

「せっかくだからってことで今日はポッキーとプリッツを買ってきたんだ!」

じゃん、と二種類の箱が目の前に並べられる。ポッキーの方は一番オーソドックスな赤い箱で、プリッツの方はトマト味だった。どちらも何度か口にしたことがあって好きな味だ。並べた箱を手に取って河宮が続ける。

「で、今からオレのお願い聞いてくれたらさ、これ遊海にやってもいいかなって思うんだけど…どうかな?」

期待に満ちた目でこちらを伺いながら河宮は言い終えた。仮にも先輩である俺をお菓子で釣ろうとはこいつはなかなかにいい根性をしていると思う。ていうか普通ならポッキーごときでいいよなんて返事してくれるいい人間はいないと思うがそこを考えていないあたりはまだ子どもというか甘いというか。そういうところは憎めない。まあポッキーとプリッツ両方とももらえるならいいか、なんてすこし心が動いてしまった自分も安い人間だと思うけれど。

「…河宮のお願い聞いたら、これ両方くれるの?」

こちらも確認のためにたずねてみる。河宮は一瞬きょとん、としてからようやく俺の質問の内容を噛み砕いたようでああ、いいぜ!と元気よく返事をした。こっちもよし、と心でガッツポーズをする。

「じゃあ決まりだな!えっと…オレからのお願いってのはさ、」

それが勉強を教えろとかお弁当作ってくれとか俺のできる範囲のことであるようにと祈りながら言葉を待つ。なぜか緊張した。

「…ポッキーゲーム、し、てくれねーかなー…って」

視線を逸らしながら河宮はもごもごと言葉を紡いだ。だがその答えは俺が予想したどれにも当てはまらなかった。全く頭になかった言葉を受けて反応が遅れる。ポッキーゲーム?誰が、誰と?

「は…?」
「だからっ、オレと、遊海で、ポッキーゲーム …し、よう って…」

真っ赤な顔で河宮が早口でもう一度先ほどの「お願い」の内容をまくしたてた。少し間を置いてから意味を完全に理解して一気に顔に熱が集まる。神妙な面持ちでいったい何を言うかと思えばポッキーゲーム?河宮の突拍子もない発言は割と日常的なことだが今回ばかりはさすがに驚かされた。
でもそれを嫌だと思わない自分にも驚く。むしろ仕方ないなという気持ちさえ浮かんできて。なんだかんだ言って俺もこんな河宮のことが好きらしい。

「…バーカ」

ちょっと優位に立ちたくて、からかう意味も込めて軽口を叩いてみる。すると案の定河宮はショックを受けたような表情で「なっ、オレは真面目だぞ!」なんて言い返してくるものだからかわいくてたまらない。余裕を味方に付けて、すこし笑いながら河宮に返事をする。

「やってもいいよ」
「え っ い、いい…のか?」
「うん」

俺の答えを聞いて河宮がみるみるうちに顔を輝かせた。ころころとよく変わる表情は子犬を連想させた。意気揚々とポッキーの箱を開ける河宮を眺めながら、このポッキーのもう一つの小袋は母へのお土産にでもしようかなと考えた。



こんな日もたまには
(甘い記念日)



青プ9で発行した無配に収録した小話です
こちらも11/11のポッキーの日になぞらえた話にしてます^^
俺得でしかありませんが、青プで無配をもらってくださった方、ありがとうございました!



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