ポッキー&プリッツの日
滝と貴志部


十一月十一日、一が四つ並ぶこの日はサッカーの日であると聞いてから、わりとイベント事に疎い方である自分でもこの日は特別なんだという意識を持っていた。といっても休みになるとか、バレンタインやハロウィンのように世間的に有名な日ではないのだが。
ただ自分の中で、この日は何があっても絶対にサッカーに関連することをしようと決めたのだ。

今日は日曜だがサッカー部の練習が入っていたので、俺はいつもより早く学校へ向かった。
サッカーの日にみんなでサッカーが出来るなんて幸せだなあと思いながら着替えを済ませてスパイクの紐を結び直していると、部室のドアが開き総介があくびをしながら入ってきた。

「おはよう、総介。早いな」
「ん…まあな」

荷物をロッカーに下ろす様子をぼんやり見ていたら、総介が再び話しかけてきた。

「そういや今日ってサッカーの日…だっけ?」
「ああ、なんかどこかのスポーツ会社が言い出したらしい。サッカーは十一人同士でやるから、とかいう理由で」
「ふうん…こじつけた理由だな」

理由を語ると総介は少し笑った。
まあ正月や建国記念日などの他はこじつけてイベントに絡めた日が多いだろう。でも例えこじつけでもサッカーの特別な日があるなら嬉しいかな、と俺が返したら、おまえ本当にサッカー好きだよなと再び笑いながら言われた。

「こじつけで思い出したけどさ、今日はポッキー&プリッツの日でもあるんだとよ」

ポッキー&プリッツ…?と一瞬頭に疑問符が浮かんだが、記憶を手繰り寄せてそういえばテレビコマーシャルで宣伝していたっけ、と思い出す。それこそこじつけだなあと思った。四つ並んだ一を棒状のお菓子に見立てるなんてなかなかユニークな発想だ。
一人で色々考えていたら、いつの間にか総介が今話していたポッキーの袋を開けて中身をかじっていた。名前通りの軽快な音を立ててそれは瞬く間に総介の口に収まっていく。

「おいおい、いくらポッキーの日でもお菓子は持ち込み禁止だぞ…」

注意しながら総介の元へ行ったら、急に腕を掴まれて引き寄せられる。総介が一瞬不敵に口元を歪ませるのが見えた。

「じゃあ力ずくで取ってみせろよ」

いつもより低い声でそう言われて心臓が大きく波打った。俺がその声に弱いのを知っててやってくるのだから本当にずるいと思う。
総介は空いた方の手で再び袋を探り、ポッキーのプレッツェル部分を咥えて俺の方へ顔を近づけてきた。まさかこれを俺に咥えろというのか。

「な…、っ」
「ん」

俺の片手は空いているし、本気で取ろうと思えば全然難しくないことだったが、総介が譲らないと言わんばかりにポッキーを差し出してくる。それが小さな子どものように見えて少しだけ微笑ましい気持ちになった。今は誰もいないし、たまには総介のわがままに付き合ってもいいかなと恐る恐るチョコレートがかかったプレッツェルの端をかじってみた。軽い食感と甘い味が口に広がって素直に美味しいと思った。もう一口、と進めてから、総介との顔の近さに気づいて恥ずかしくなる。慌てて離れようとしたがもう総介の手が頭の後ろに回り込んでいて、残りのポッキーごと唇を奪われた。
甘いキスに思考を溶かされながら、しばらくポッキーが見れなくなりそうだとぼんやり考えた。




シガレットよりも
(キスは甘いほうがいい!)


青プ9での無配に収録した小話です
11/11のポッキーの日になぞらえた話にしてみました^∇^
意外にもたきしべはこれが初めてという…
青プで無配をもらってくださった方、ありがとうございました!



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