「ほらほら、ユウヤ!早く早く!」
「わかったよ」

嬉しさを隠しきれないといった表情で僕を急かすランくん。最初は早足で歩いていたのにいつの間にか走り出していて、小走りで先を行っては立ち止まって振り返り僕を呼ぶ。その度に、元気で明るい彼女の声が僕の鼓膜を心地よく揺らすから、僕はついそれに聞き入ってしまうのだった。
ランくんはいくら先に行ったって必ず振り返って僕を待っていてくれる。
赤いポニーテールが揺れるのを眺めながら、次はいつ振り向いてくれるかなあなんて呑気に考えた。すると不意にランくんがくるりとこちらを向き僕の隣へと戻ってきた。普通に歩くときはランくんの方が歩幅が短いから、僕は先ほどよりちょっと歩く速度を落とす。

「…あのね、ユウヤ」
「なんだい?」
「こないだのアングラテキサスでは、色々勝手言っちゃってごめんなさい」
「あと、バトルのしかた、コーチしてくれてありがとう!」

少し眉を下げてしおらしく謝ったかと思えば、次はいっぱいに笑ってお礼を口にして。くるくると春風のように入れ替わるランくんの表情に自分の口元が緩むのを止められなかった。

「どういたしまして」

そう言いながら自然と、僕より背の小さな彼女の頭に手が伸びた。柔らかい髪の毛をふわふわと撫でてしまってから、こんなことをしたらランくんは子供扱いしないでと怒るんじゃ、なんて慌てたけれどそれは単なる杞憂だった。

「えへへ、なんか撫でられるとくすぐったいや」

少しだけ目を細めて、はにかむようにほのかに頬を染めながら、撫でる僕の手のひらを嬉しそうに甘受する彼女がそこにはいた。
バトルで見せるような強気な表情も生き生きしていていいと思っていたけれど、こんな風に可憐な花が綻んだような女の子の笑顔を見たのは初めてで、心臓がひときわ大きく高鳴ったような気がした。
途端に頬や耳に熱が集まる。はっきりと頭の中で彼女のことをかわいいと意識してしまった。

「…ユウヤ?」

はたと彼女の声で我に返った。しばらくぼんやりと呆けていたらしい。不思議そうにまばたきをしながらこちらを見ている。そんな些細な仕種さえもああ、かわいいなあなんて思うようになってしまって、その度に心臓がうるさくなる。
僕はどうやらとんでもない感情に気付いたみたいだ。名前をつけるにはまだ不安定で心許ないけれど、それは僕の中に確かに息づいている。ちゃんと名前がわかるまでは胸の中にそっとしまっておこう。

「なんでもないよ、さあ、行こうか」
「うん!」

それまでは、いつも彼女を守れるくらい側にいれますようにと願いながら。




初 恋 き ら き ら




(胸の中に光る、小さな星のかけら)






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