※時間軸は気にしてない
※初なのでキャラが掴めてない
※それでもいい方はどうぞ
「…なあ、レックスはやっぱりコーヒーが好きなのか?」
さっきまでアキレスのメンテナンスに夢中だったかと思えばいきなりこんな質問を寄越してくる目の前の少年。こいつの話は唐突に始まることが多い。こてんと軽く頭を左に傾げて、こちらへ疑問を含んだ眼差しを向けてくるバンは、LBXバトルで時折見せる、険しく憂いさえうかがえる表情が嘘のようだ。
年相応の、いや、年よりも幼い印象を受けるそのあどけない視線になんだかかわいらしさを感じて思わずくつくつと笑ってしまう。
「な、なんで笑うんだよ…」
「…すまない、なんだかかわいくてついな」
「かわっ…!?お、俺は真面目に聞いてるのに…!」
俺のかわいいという言葉に大げさな反応を見せたあと、どうやらすこし機嫌を損ねてしまったのか口をとがらせて何やらぶつぶつ言っている。バンは本当に表情が豊かでわかりやすい。
「確かにコーヒーは好きだな」
何しろこうして喫茶店のマスターをやるくらいだ、と続ける俺の言葉にぱ、と顔をこちらへ向けるバン。大きな丸い瞳がまばたきを二回してから俺へと視線を注ぐ。
「コーヒーの何がいいんだ?コーヒーって苦いし…正直、俺はあんまり美味しいと思わないけどなあ…」
さっき出してやったバニラシェーキをストローで啜りながらうーんと考えるようにつぶやく。グラスに入っている氷がからりと涼しげな音をたてた。ついこの間まで小学生だったような少年だ、コーヒーの味なんてわからなくても無理はない。
「味だけじゃなくて、香りや苦味を楽しむものだからな」
「香り…」
「豆の産地や挽き方でも色々変わるんだ」
「へえー、コーヒーって深いんだね」
「LBXと同じようにな」
「そっか…」
どんなものも深く知れば知るほど面白くなる。対象は違えど、夢中になる気持ちは同じだ。
「あっ、LBXって言えば、俺いまアキレスの新しい戦い方を考えててさ!」
「そうか」
「色々操作してたら動きのよくなった瞬間があって…もう少し速くCCMを操れたらうまくいきそうなんだけど」
アキレスの手足を布で磨いてやりながら、愛おしげにという表現がしっくりくるだろうか、頬をすこし上気させ、やわらかい笑顔を浮かべてそれを見つめるバンの表情からは、本当にアキレスが好きでたまらないという気持ちが簡単に読み取れた。
洗ったグラスやフォークを拭きながら横目でそれを眺める。いつもの光景のはずなのにどうしてかそのバンの視線に胸の奥底がちり、と焦げつくような感覚がした。決して気持ちいいものじゃないそれは瞬く間に胸を満たす。
俺はまだ水滴が拭いきれていないマグをカウンターへと置く。丁寧に扱わなければという気遣いが頭から抜け落ちていたせいで机と些か強くぶつかったマグがコン、と空気を割るような音が響いた。
何事かと顔を上げるバンの顎を指ですくう。
「な 、レックス…?…ん…っ!」
大の大人である俺がまさかLBXに嫉妬したなんていう事実をかき消したくて、いつもより少しだけ乱暴にバンの唇を奪った。やわらかいそれを舌で軽く舐め上げてもう一度押し付ける。突然のキスに驚いたバンの目が大きく開かれたのを視界で捉えて心中でほくそ笑む。黒目がちで透き通った光を映す綺麗なこの瞳を独り占めできているのだから、思わず笑いたくなるのも仕方ない。
「っ…、ん……ぅ… っは…!」
小さな口の中を存分に蹂躙してからようやく唇を離した。頬を朱に染め、色を含んだ目線は伏せられていて、普段あまり見られない薄い目蓋が扇情的だ。肩で息をするせいで濡れた唇が差し込む光を受けて艶やかに光る。
「なん で…っいきなり、こんな…!」
「スリルがあっていつもよりドキドキしただろ?」
「…っ!」
真っ赤な顔で俺を睨みつけながら必死に抗議するバンにしゃあしゃあと答えてやると、どうやら満更でもなかったのか、目線を逸らしてもごもごと言葉を濁す。俺が突然キスをした真意には気付いていないようだ。
それにすこし安心しながらも、これから先この小さな恋人に振り回される可能性がまだまだあるのだろうなと考えて苦笑いが浮かぶ。
無邪気な笑顔で俺を散々振り回しておきながら、ここぞという時は惹きつけて離さない。そしてそれに甘んじる俺はどうしようもなく愚かだけれど、あまりに心地いいから抜け出せないのだ。
ほろ苦ランプシュガー
(甘くて苦い、不器用な恋)
何だかんだ言いながらも
バンくんに適わないレックスと
そんなことは露知らず一生懸命
恋するバンくん