鈍い頭痛と熱に浮かされた意識の中で、心配そうに覗き込んでくる白竜の顔がぼんやりと視界に映る。普段は眩いほどの光を湛えている赤い瞳が、今は不安げに揺れていた。
自分のせいで俺が風邪を引いてしまったとすっかりしおれている白竜は、なんだかいつもよりも頼りなく、儚いように見えた。

「…んな、泣きそうな顔…すんな」

眉根を寄せた白竜の顔は心なしか泣くのをこらえているようにも見えて、俺は思わず声をかけていた。喉がやられているせいで情けないことにぱさぱさした声しか出なかった。

「…おまえの、せいじゃねえから」
「剣城…」

暗く沈んでいた瞳が、ようやく安心したのかすこし滲んで、街を照らしながらとけていく夕陽を思い出した。思わずこちらの頬もゆるむ。熱のせいか互いを縛っていた堅い空気がやわらかくなったせいか、睡魔が俺の意識を曖昧にしはじめたその時だった。
頬にあたたかく柔らかいものを感じてから、ちゅ、という小さな音が鼓膜を控えめに揺らした。

「な、治るおまじないだ…俺のせいで風邪引いたから…はやく治ってくれ剣城…」

一瞬何をされたか分からなかったが、白竜が恥ずかしそうに口ごもりながら言うのでキスをされたんだとようやく理解する。まるで借りてきた猫のような白竜の様子に、普段もこのぐらい大人しけりゃかわいいのにな、と思いながらお礼を告げた。

「…、ありがとう…」

白竜の、ふわふわと空気をなぞる薄色の髪をくしゃりと撫でてから、寝るためにタオルケットをかけ直そうとした瞬間、それを遮る形で白竜が俺の上にかぶさるように白い腕を回してきた。鍛えられてしなやかな筋肉のついた肩はすこし震えている。
俺は慌てて熱で動かしにくい体をわずかに起こして白竜に注意を促した。

「…おい、うつるぞ…!」
「ん、剣城のなら、いい…」

普段が信じられないくらい甘ったるい声で囁いてきて、離れる様子なんて微塵も見せないどころかもっとくっ付いていたいと言わんばかりに俺に抱きついてくる力を強める白竜に、風邪ですでに蝕まれていた俺の理性は脆く簡単に崩れていった。




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