俺が剣城に必要以上に執着するのも、恨みを募らせ三流と叩くのも、置いていかれた気分になって苛つくのも、気づけば頭であいつの反応を思い浮かべて苦い気持ちになるのも、全部あいつのことが嫌いだからだ。
俺がライバルとして認めてやったのに、ゴッドエデンから去ったあと弱い仲間などとつるんでボールを蹴る剣城は俺が今まで見たどんな剣城よりも楽しそうで、生き生きしてて、輝いていた。
フィールドで軽やかに揺れる夜空で染めたような髪が幾年振りにまた俺の視界をなぞる。けれど今目の前にいる剣城はゴッドエデンにいたときの寂しさも険しさも持っていなかった。代わりに感じられるのはサッカーへのまっすぐな思い。騎士が振るう剣(つるぎ)のように研ぎ澄まされた一筋の強い意志だった。

俺には笑顔なんて見せなかったくせに。俺の名前なんて呼ばなかったくせに。
だから剣城は三流シードなんだ。強くなることだけを追い求め己を高めてきた俺に、あんな腑抜けたやつが適うはずがない。
そう頭で思うのに、どうしてか胸にちくちくとした痛みが積もる。負けているかのような悔しさとひとかけらの悲しみが混ざったいびつな痛みだ。そんな時は決まって鼻の奥がつんとしてまぶたの裏が熱くなる。鼻をひとつすすってみれば、たちまち涙の膜がゆらりと瞳を潤すのだ。

今日の試合は雷門に完勝したのにちっとも気持ちが浮かばれない。自室のカーテンは引かれたままで、明かりも点けずにいた。俺が体を横たえている質素なデザインの、機能性だけに重きをおいて作られたベッドのスプリングが僅かにきしむ。窓は開けているから、夜風が薄いカーテンを揺らして外の景色がちらちらと見えた。やはり剣城の髪色と似ている。

「…つるぎ…」

ぽつりとつぶやいた言葉はあまりに頼りなく、真っ暗な部屋の隙間へと転がっていった。まぶたを閉じて目に映る情報を遮断して、静かな夜の空気に身を委ねる。
究極の存在になるという目標がある以上、自分の身に変化が起きるようなことはあってはならないが、このままシダーウッドの香りに包まれて闇に溶けてしまえばどんなに楽か、と思った。そうすれば剣城への気持ちも消えるだろう。

そう考えてから再び目を開ける。カーテンを端へ押しやり窓の外を見ると、薄い雲ごしに柔らかい光を振り撒く月があった。
ふと、剣城の瞳が同じ色をしているのを思い出す。鋭い目つきだけれど不思議と冷たさを感じなかったのは、月と似ていたからだったのかもしれない。あいつの奥にある大切な人間への思いが、口にこそ出さなかったが眼(まなこ)に表れていたのだろう。

また水分が瞳の表面を潤していく感覚を、今度は抗わずに甘受することにした。生ぬるい夜風が目尻に留まる涙を、優しく冷やしていった。









にじんでいくお月さま(嫌い、好き、嫌い、ほんとうは、)





以前ツイッタの診断で出たお題を使ってみました





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