「ぅあ…ぁっ、ふ…ぅう…っん…!」

薄いドアを通して、彼の切なげにとろける声が鼓膜に染み込んでくる。簡易ベッドが二人分の体重を受けて軋む音が、床を這うように体全体に伝わる。小さな音の波は俺の脳髄を麻痺させるには十分すぎるほど淫猥だった。
それに呼応するように、俺の中の欲もゆっくりと首をもたげる。体は心のように嘘をつけないんだなと自分の現金さにうんざりした。
熱を孕んだ中心を収めるために震える手を伸ばす。頭の中で甘い声が響いて、ごめんごめんと謝りながらも扱く指先の動きを止めることはできなかった。

「…く、…ぅ…!」

俺の汚い欲が混じった命の元は、正しく使われることなく俺の掌を汚して冷たくなった。
彼の舌も指先も肌も、髪さえも、今は誰とも知らない男に独占されている。その事実に吐き気がしそうだけどたったひとつ声だけは、こびりついて内側から焦がすように甘く、甘く、俺を狂わせていくばかりだった。





Honeycomb(侵食された末には何があるのか)




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