今日の練習はさんざんだった。
体調が悪いとかじゃないのにボールのパスミスが目立ったし、崩れた体勢を立て直すときも、ポジションチェンジも、動きのすべてにキレが足りなかった。いつもの調子が出せていないのが自分でもわかったから、イライラして余計に気が散った。
天馬くんや先輩たちに心配されたりしたけど、原因がわからないからどうしようもなくてため息が出た。今日はもうさっさと帰って早く寝てしまいたい。
そう思いながら帰り支度をしていたら、霧野先輩が「一緒に帰らないか?」と誘ってきた。

「…俺はやく帰りたいんですけど」
「まあそう言うなよ、ちょっとだけだから」

…面倒だな。でも断ったって無理やりついて来そうだし、ちょっとだけならいいか。

「仕方ないですね」

オレンジの光が散る街中を歩いて、見慣れたファストフード店に入った。ソファ席に荷物と練習で疲れた体を沈める。

「なんか食いたいものあるか?」

そう聞かれてつい、「じゃあ、ブルーベリークリームチーズパイ…」と答える。「わかった、買ってくるな」にこりと笑顔で返されて、一瞬心臓が跳ねる。霧野先輩の笑顔は、なんだかずるい。
しばらくして先輩がトレーを抱えて戻ってきた。ピンク色の髪が視界をなぞったのをぼんやり眺めていたら、目の前にすいとホットドリンクのカップが差し出されて。

「ほら、これ」

俺こんなの頼んでないです、と言い終わる前に、「俺からの奢りだから」と手渡されてしまった。ふたを開けると、湯気とともに紅茶の香りがふんわり立ち上る。ミルクティーだ。

「…ありがとう、ございます」

お礼もそこそこに暖かいミルクティーを一口飲んでみる。甘くて優しい味が口の中を包み込んで、ゆっくりと喉を潤した。

「今日おまえ、調子悪かっただろ?イライラしてたみたいだったし、それ飲んだら落ち着くかと思ってな」

そう言いながら、俺の頭をぽんぽんとやさしい手が撫でた。

「ちょっと砂糖を多めに入れて、甘くしてある。甘いものは疲れに効くからな」

また心臓が音を立てて跳ねた。
霧野先輩のちいさなおせっかいはひどく心地よくて、いつだってこんな風に俺をやさしくかき乱す。
頬が熱いのも心臓が忙しいのもごまかしたくて、俺はもらったミルクティーを急いで飲み干した。



紅茶とおやゆび姫



(不調の原因はきっと、あなたのやさしさ)





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