前々からうっすらと思ってはいたが、こいつはどうやら目で語るというか目で訴えてくるらしい。
兄の事情でフィフスに入った手前俺から絡むことはなかったが、肌に感じるほど強い視線を向けられることがたびたびあったから分かったことだ。赤い瞳がきらきらと光を乱反射させながら、俺に嫉妬とも羨望ともつかない感情を伝えてくる。実に不思議な気分だった。

***

ある日の訓練中にロボットのトラブルに巻き込まれた白竜を助けて以来、言葉を交わす機会が増えた。主に白竜が俺に、今日の訓練もやりがいがあっただとか昼飯は何を食うつもりだとか、他愛ない話をする程度だが、それを楽しみにする自分に気づいたのはいつだったか。
次第に二人で時間を共に過ごすことが増え、それに比例して俺はよく白竜の部屋に訪れるようになった。招かれっぱなしでは悪いとある時こちらも部屋へ呼ぼうとしたけれど、白竜は自分の部屋が楽だからと断るばかりだったので俺も気にするのをやめた。

今日もまた、練習後に恒例のごとく部屋へ呼ばれて。TシャツとGパンのラフな格好で、雑誌と飲み物を手に薄いドアをノックすれば、間髪いれずに入れ、と声がした。控えめにドアを開けると白竜はクォーターパンツに薄手のパーカーで、ベッドに寝転がってゲームをしている。いくら慣れてるとはいえ客に対してなかなか失礼な態度だな…とすこしため息をつき、床へ腰を下ろした。

部屋に響くのは俺が雑誌をめくるときに紙が擦れる音と、白竜がタッチペンでゲーム画面をたたくカチカチという無機質な音ばかりだ。たまにそこへ俺が持ち込んだ飲み物を嚥下する音や、ベッドにいる白竜が身じろぎして起きる衣擦れの音が加わるけれど、基本的に会話はなかった。普段は白竜がうるさいほど俺に話しかけてくるのに、珍しく今日はだんまりを決め込んでいる。違和感にとらわれながらも白竜に会話を強要することはせず、時間はゆるりと流れた。

***

前々からうっすらと思ってはいたが、こいつはどうやら目で語るというか目で訴えてくるらしい。
斜め左前あたりから視線を感じて、雑誌から目線だけを上に移し白竜のいる方を盗み見ると、こちらを見つめながら熱っぽく揺らぐ赤い瞳と目線が絡み合った。瞬間、赤は驚いたように丸くなりふいとこちらから視線を外して。そんな白竜の一連の動作を一つ一つすべて写し取るような感覚で見つめる。俺から視線をずらしたとき伏せられたまぶたの白さや、案外長い睫毛、それを透かして見える涙の膜に覆われた赤い瞳。白い頬にわずかに差している桜色。
それらを全部脳の奥で認識し終えてから白竜の視線の意味を理解して、急に顔が熱くなった。
性別がどうとか、言葉にもしてないのになぜ急にとか、そんな常識的な台詞がひとつも浮かんでこなかった代わりに頭を占めたひとことを、少しずつ空気へ溶かす。

「…そんな、手ェ出してほしそうな目で…見んな」
「な、っ!?ち、ちが」

慌てて否定の言葉を紡ごうとする薄い唇を俺も同じそれで塞ぐ。

「…! んん… っ」

鼻に抜ける甘い声を耳で拾いながら、もう抜けられそうにないなという自嘲にゆっくりと身を任せることにした。






ストロボスコープ(ただ君ばかりを見つめていた)







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -