近ごろは夕日が傾くのもだいぶ早くなり、肌に触れる空気が涼しくなって急に秋がきたと感じさせられる。いつものように練習が済んで、各々が帰り支度をはじめだす時間になるのもだいぶ早くなってきたように思ってしまう。けれど、わいわいと他愛ない話をしながらオレンジの光があふれる中を帰るのを、ようやく楽しいと思うようになっていた。

松風と西園、そして新しく入ってきた転入生の狩屋も、楽しげに話をしながら俺の数歩先を歩いている。松風が話すのをにこにこしながら聞いている様子の狩屋を見て、主に松風が狩屋に対して熱弁をふるっているんだろうというのは容易にわかった。

どうして俺は今苛ついているんだろう。松風が普段から誰にでも屈託のない笑顔を振りまく裏表のない性格であることは、この部で一緒に活動して以来いちばんよく分かっていることだ。あの性格だからこそ誰からも好かれるし、誰もを好きだと思えることも。
しかしながら素性が見えないやつにあんなに興味津々で話しかけて四六時中くっついてるような状況は許せない。

「…どうしたんだ?霧野、難しい顔をして」

左耳から入ってきた神童の声にはっと我に返る。神童が機嫌を伺うようにこちらを見ているということは俺はかなりぶすくれた顔をしていたらしい。俺としたことが。

「っああ、すまない神童…」

あわてて謝罪を告げ神童の方へ向き直る。

「一年を気にしてるように見えたが、何かあるのか?」

神童に聞かれて心臓が変な音を立てた気がした。いやこれは松風のことを気にしてるわけじゃなくて…と心の中で否定してからはたと思う。
神童が聞いてきたのは別に松風のことに限った意味じゃない。きっと狩屋や西園の件も含んでいるだろう。落ち着けよ、と自分で自分の早とちりに突っ込みを入れる。ああ、俺はどうしたんだろう。

「あ、えっと!あいつら仲いいなって!」
「そうだな、天馬なんか狩屋にずっとくっついてるし」

神童もあちらを見てふ、と笑う。松風が狩屋にくっつきっぱなしなのは事実だがそう聞いてなぜかむっとしてしまった。

「…あいつは、わかってない」
「は?」
「狩屋は油断できないんだ、一見愛想がいい風に思うけどあいつは…」

言いながら、わざとらしく感じる狩屋の笑顔とそれに楽しげに応える松風が浮かんで舌打ちしたい気持ちになる。神童に対してというよりはひとりごとに近かった。

「霧野?」
「…いや、なんでもない」

いったん言葉を切り、考えるのをやめることにした。気分が悪いからといって神童に当たるようなことはしないけど、キャプテンである彼に余計な気を回させるのは申し訳ない。
これは俺の問題だ。松風を狩屋の策にはめさせるわけにはいかない。ぐ、と拳を握りしめる。

「神童、俺ちょっと用事思い出したんだ。本当に悪いけど、先に帰っててくれないか?」
「えっ、ああ、わかった」
「ごめんな!」

神童への言葉もそこそこに俺は急いで踵を返し、学校のほうへ走る。まだ狩屋と松風たちは帰っていないはずだ。
よりによって狩屋に気付かされるとは、神様もとんだいたずらを仕組んでくれたものだ。思わずため息をつきたくなる。今まで否定していた気持ちをようやく正面から見た。思っていたよりシンプルで、暖かかった。

例えひとりだろうと俺は狩屋の企みを暴いてやる。サッカー部を、松風を、守るために。





バニラビーンズ(甘くて苦い、負けられない勝負)



かなり前に書いたのでマサキのキャラが定まってませんマサキに天馬を取られまいとする霧野を書きたかったはず…



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