一度捕まってしまえば二度と逃れられない

その、笑顔。




Sniper's Smile




「マーク!久しぶり!」

本当に久しぶりのこっちの空気。

「一哉、久しぶりだな、…会えて嬉しいよ」
「ああ、…俺も」

離れてた時間は長くはないのに、向こうでの日々が濃すぎて鼓膜を震わしたマークの声に、思わず胸のおくがきゅんとなった。

「…表情が何か柔らかくなったな?向こうでなんかあった?」
「んー、まぁ話すと長いけど…色々、あったかな」

「色々?」
「うん、本当色々」

有りすぎて、今だけじゃ時間が足りない。

「そうか…機会があったらまた聞かせてほしいな」
「いいよ、機会があったらね」

こっちにいる間は、やっぱりマークと話がしたい。
本当に色々あったんだ、早く聞いてほしい。

「ていうか一哉、ん…何かいい匂いするけど…向こうで女の子となんかあったりした感じ?」

マークは鼻がいい、から少しどきりとしてしまった。
別にやましいことはしてないんだけど、なんとなく。

「え?…っあー…あはははは…
まぁ、…その、付き合うとかじゃないけど、」
「けど?」
「一方的に、こう、ガンガンアタックされたというか、」

なんとなく、リカの名前は出せなかった。

「へぇ、珍しいね、日本人は奥ゆかしいって聞くのに」

唇に弧を描いて、マークが日本人像を少し皮肉った。

「そうじゃない奴らばっかりだよ、特に雷門の奴らは」
「一哉が疲れちゃうくらい?」

顔に出てた、かな。

「そう見えた?」
「うん、前はそんな苦笑いみたいな表情、こっちでは見せなかったなーって思ってさ、…でも、いい表情してる」

雷門は本当にいいところだったから。
オレが今いい表情なのはあいつらのおかげだ。
「あいつらもすごかったけどあの子は特に…ほんと色んな意味ですごかったから」

リカのアプローチは思い出すと苦笑いの記憶ばかり。
でも、オレを好いてくれていたこと自体は嫌じゃなかったけれど。

「もちろん断ったんだろ?」
「そりゃ、…そうだけど」
「だってオレがいるもんな?」
「そうだけどさ、ってそんなこと、…っ、言えるわけないだろ」

気まずくなるしややこしくなりそうだったから、あっちでは黙ってた。
まぁ、土門は知ってるけど…

「あっちはまだまだ理解が少ないからなぁ?ま、いーけど…一哉、かーわい」
「…かわいいって言うな」
「いーじゃんホントのことなんだから」

マークは普通なら恥ずかしいようなこともさらっと言う。
それは多分アメリカ人だからだけど。

「…、妬いたりは、…しないの」
「気にしてたんだ?…だから今一哉を抱きしめてるじゃん」
「…答えになってないよ」
「一哉がオレと離れてた間のぶんのハグってこと」

オレばっかり、乗せられてる気がする。
マークは、妬かなかったの?

「…ハグ、だけじゃ…足りない」
「かしこまりました、…では、如何いたしましょう?」
「…っ言わす気かよ!?」
「ええ、姫の仰せのままに?」
「なんで姫なんだよ…」

…確実にマークのペースにのまれてる。

「一哉がかわいいから」
「答えになってない、だいたい俺男だろ」
「気にしない」

こうなったらマークには何を言っても無駄だ。

「どうしてほしい?」
「…じゃあ、…キ、…ス…とか…」
「Repeat after me.」
「いきなり英語で言うな」
「で?なんなの?はっきり言わないとオレ、やんないぜ?」

このドS…!
人の恥ずかしがる顔見て喜びやがって…!

「…っキス…してほしい…!」

「Excellent!」

にこり、少しくすんだエメラルド色の瞳が細められて。
最初は一度、確かめるように触れるキス。
そこにちゃんといると分かったから、それからは味わうように唇を何度も合わせて。
お互いの視線が結び付いたら最後は、とろけてしまうほど甘い深い口付けを。

ちゅ、と軽いリップ音の後、濡れた唇から、どちらとも付かない唾液がつうと二人の距離を埋め間もなく途切れた。

「一哉と久しぶりのキス、ごちそうさま」

唇をぺろりと舐める仕種が、妙に色っぽくて、不覚にもどきりと心臓が高鳴った。

「…挨拶とか、他の子とは普通なのに、なんでマークとの……キス……はいつまでも慣れないんだろ」
「一哉かわいいこと言うね?」
「…かわいいって言うなってば」
「だってオレにとっては全部かわいいんだもん、キスの時の表情とか、唇も柔らかいし、睫毛だって長いし」
「ああああ言わなくていいよもう!!」

…また恥ずかしいことを…!

「さっきのだけどさ、それってきっとオレに恋してるから、でしょ?」
「オレとのキスは一哉にとってただの挨拶じゃないから、いつまでも慣れないんじゃない?」

自信ありげにさらりと言う。
自分もあまり言えないがこの欧米思考め…!

「じゃあ逆にマークはなんでそんなさらっと出来るんだよ」

む、と少しふくれて聞いてみる。

「それはオレが一哉を好きだから…今サラ、でしょ?」
「本当?」

わざと聞き返してみる。
オレばっかりなんて、割に合わない。

「あ、ひどいな信じてくれないの」
「だって言い方とか、…軽いし、」
「じゃあ、軽くなかったら、信じてくれるんだ?」
「って、え、?」

…まずい、これはどうやら、墓穴を掘ってしまったみたい、だ。

「ま、まだ時間はたっぷりあるし…オレが一哉をどれだけ好きか、じっくり丸一日かけて教えてやれるな?」
「え、っちょ…そういう意味じゃ、」
「久しぶりだし、楽しみにしてるぜ?」

…駄目だ、もう捕まった。
有無を言わさないこの笑顔が恐い。

…とりあえず痛みに効く市販薬を用意しておかなきゃ…明日が辛い。
あぁ…向こうで買っとけばよかったな…

「や、だから、それ以外で、方法はないの…?」

ダメ元で聞いてみる、けれど。

「まず最初に愛してやらなきゃな?他はそのあといくらでも聞いてやるから」

耳元で話し掛けられる。
ぞわりと全身が粟立ってしまったのは、耳が弱いせいだけじゃない。

「荷物置いて連絡くれたら迎え行くから、痛み止めの薬、用意しとけよ?」

先程のようににこり、ではなく今度はにやり、と笑って、マークは待たせていたディランの元へ戻っていった。


後でハンバーガー、奢らせてやる…!!





ちなみに余談
久しぶりだったせいか一之瀬は丸一日たっぷり
マークに付き合わされました
そのあとマークは一之瀬を思いきり甘やかしてたらいいな





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