※霧野が変人
※変態ではなく変人



それは本当にたまたまだった。そういえばと思い付いてからはとても気になって、事あるごとについ注視してしまう。けれど尋ねるタイミングやどの様に聞けば不自然にならないかなどぐずぐず考えているとあっという間に部活の時間が終わってみんなが帰路につくから、結局聞けず仕舞いでその日が過ぎる。

疑問というのは解決できないまま時間が経つと、始めの時よりも濃くなり己を縛るらしい。日々考えすぎてあらぬ妄想まで混じりだしていよいよ本格的に苛々も募ってきたので、痺れを切らした俺はもう自分の体裁に気を配る余裕などなくなっていた。

ある日の休み時間に廊下をうろついていると、信助と楽しげにしゃべる俺の疑問の原因…もとい天馬が視界に現れたので、ここ最近俺を支配していた疑問を単刀直入に突きつけることにした。

「おい天馬!その、…デコを見せてくれないか」
「…へ…?」

天馬と信助だけでなく周り中の空気までもが固まったのを全身で感じた。
俺に言われた言葉の意味がわからないらしい天馬はまだぽかんとして「?」という顔で俺を見ている。信助は俺と天馬を交互に見やってどうしたらよいかと隣にきた空野に視線で訴えた。言ったことはそのままの意味だが、なぜいきなりデコを見せろなのかということなのだろう。
やってしまった、と急に冷えた頭が焦る。天馬以外の周りからも奇異の目やさわさわと微妙な雰囲気を感じた俺はとりあえず、と慌てて天馬を捕まえて人気のない空き教室の前まで連れて行くことにした。

「っわ…!あの、っ霧野先輩…!」

掴んだ手首の細さとやわらかさにどきりとする。見た目に反した脆さを手の平で感じて思わず後ろを振り返り見ると、そこには大きな青色の瞳を揺らす天馬の不安そうな表情があった。
無言で早足に天馬をぐいぐいと引っ張っていく俺の様子に、怒っているんだと誤解を与えたようだ。こういう分かりやすいところはかわいらしいと感じる。俺はおろおろする天馬を安心させるために柔らかく笑った。

「怖がらせたな…ごめん。大丈夫、全然怒ったりなんかしてないから」

ちょっと下からおずおず、と見上げてくる瞳が「怒ってない…?」と聞いている。それがまるで子犬みたいであまりにかわいくて、くつくつと喉で笑いを押し殺しながら天馬のふわふわの髪を梳いて優しく撫でてやる。まぶたを閉じて俺の手の平を気持ちよさそうに甘受する天馬は本当に犬のようだ。

「よし、じゃあ本題だな」

天馬の頭を撫でる手を止めてつぶやく。天馬は一瞬ぽけっとしたが次に理解したのかああ、と頷いた。

「は、はい…!」

緊張気味に返事をして、天馬がゆっくりまぶたを閉じた。柔らかにかかる前髪をす、とよけると、ぴくりと天馬が小さく身じろぎしてから白いなめらかな額が現れる。想像していたよりもせまいおでこだった。天馬の額をしばらく見つめて俺はふと思い出す。今の空気はなんだかキスをする前の雰囲気に似ていた。
いたずら心が湧いてにやりと口角を上げた俺は、天馬のかわいらしいおでこに唇をちょんと当ててすぐに離す。控えめなリップ音が小気味よく鼓膜を揺らした。
俺がしたことに気付いた天馬は薄いまぶたを慌てて押し上げて、ほっぺから耳まで一気に赤くする。

「…な、せんぱ…っ!まさか、俺のおでこにキ」

その様子があまりにかわいかったものだから、天馬がみなまで言い終わらないうちに俺はもう一つ、今度はさくら色のちいさな唇にキスをくれてやることにした。






ラプンツェルのおまじない(俺のことを思い出せるように、忘れられないように)




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