消えていく街
2. 革命家(2)


 気分を改めてカヒが言った。
「今日は何を弾く?」
 問われて、ソラは鍵盤に指を添え数節のメロディを弾いた。
「連弾ね」
 すぐに了解したカヒは椅子を左に寄せる。ソラはもう一つ椅子を持ってきて隣に腰掛けた。
 ソラは度々カヒにパイプオルガンを弾いてもらっている。時にはカヒから指導を受け弾くこともあった。
 ソラなりに歌がうたえないことの穴埋めをしようという考えがあるからだ。それに加えていつしか音楽がソラにとっての伝達手段となっていた。
 一音一音に想いを込める。愛しい、愛しい、と。
 それはカヒに対してだったり、聖堂に集まる敬虔な信者たちに対してだったりする。誰かが泣いていれば元気づけるように弾き、好きだと伝えたい時には愛の言葉を囁くように弾く。技法はいまいちだったが聴く人を惹きつけてやまない。
「やっぱり、サワさんに注意されたんでしょう?」
 弾きながらカヒが心配そうに言った。
「元気がないみたい」
 ソラは弾くのをやめて否定しようとした。だが、ソラが首を振り終わらない内に拍手が起こる。振り返ると、一人の男が手を叩いていた。先程サワと話していた男だった。
 カヒが緊張する気配が伝わる。
「何かご用ですか?サワさんに用なら――」
「宣教師にはもう会って用事を済ませたよ」
 なぁ、と同意を求められてソラは首肯する。途端にカヒが色めき立つ。
「ソラに何か言ったの――?」
「勘違いするなよ。ただ話していたところを遠くから見ただけだ。『ソラ君』は」
 カヒは男と初対面ではないようだ。普段怒ることの少ないカヒが男を睨んでいる。この男は人の怒りを買いやすい人間なのかもしれない。
 男は嘉壱(かいち)と名乗った。
「イチと呼ばれることが多いから、そう覚えてくれ」
 ソラは微笑を絶やさず、わかったと相手に伝えた。男はソラの様子をじっと見た後、満足そうに一つ頷いて立ち去った。



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