消えていく街
2. 革命家(1)


 待ちくたびれたのか、カヒはパイプオルガンを弾くのをやめていた。ただいたずらに好きな音階を弾いて意味のない音色を奏でていた。
 近づくとソラの気配を敏感に察知して勢いよく振り返る。色素の薄い髪が一瞬宙を舞い、細い首を隠すように軽やかに落ちる。光を一杯に吸い込んだように輝く瞳がソラを捉えた。ソラの名を呼ぶ声がくすぐったい。
「サワさんのお説教だった?」
 導師のことをカヒ達はサワと呼ぶ。
 ソラは笑んだまま首を横に振る。
「良かった。また何か言われたのかと思った」
 もちろん、カヒと会うことをだ。実際には導師――サワの心配することはないのだ。
「何でもないのにね、私達」
 ソラも同じことを思っていたのに、その言葉に反発を覚えた。カヒに彼女のことをどれ程想っているか伝えたくて、ソラはカヒの手を取った。見上げるカヒの額にキスをする。カヒは頬を紅潮させたが、すぐに泣きそうな顔した。
「ソラが私のこと大切にしてくれるのは嬉しいよ。私もソラが好きだよ」
 ソラはカヒの手を離した。その先をなるべくならソラは聞きたくなかった。
「だってソラはすごい存在だから」
 それは皆の理想として生きているからだ。ソラは否定する。
 首を振るソラを見てカヒは寂しそうな笑みを浮かべた。
「ソラはね、強くて……きれいで……」
 カヒはソラに絶対的な信頼をおいている。それは十分過ぎる程知っていた。それから――。
「それから、私の好きな人に似てる」
 そうだ。だから、サワは二人のことを心配しなくてもいいのだ。確かにソラはカヒのことを好いているが、カヒにはソラとは別の想い人がいるのだ。
 想いを伝えるソラにカヒはいつもそう言って告白を断る。言い終わるとソラの様子を伺うのもいつものことだ。だから、ソラはカヒの望む通り、何でもないように微笑む。カヒは眩しいものを見たように目を細め、ほっとした表情を浮かべた。



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