消えていく街
1. ザイオン(4)


「雨期に入ればこの区域は陸の孤島となります。それを過ぎればあなたの将来を決める時期です。あなたが導師として生きるなら、この聖堂をあなたに任せ、私は再び各地を巡って布教活動をしようと思っています」
 導師はそこで一息つきソラの反応を伺った。ソラは動じなかった。導師の言ったことは予想の範囲内だった。
 導師はそれを確認するように一つ頷いた。
「ですから、あなたがこの街から出て故郷を訪れることも親御さんに会うことも制限されるでしょう。動くなら今です」
 ソラは即答するのをためらった。ただ、彼の心配りだけはありがたかったので、感謝の思いを込めて頭を下げた。
 導師は探るような目をいつもの柔和な笑顔に戻した。
「結局はあなたの決断に委ねるしかありません。よく考えて決めるのですよ――カヒが待っています。お行きなさい」
 2階席の聖歌隊は皆帰って、聖堂は冷たい静けさに満ちていた。その中を音量を落としたパイプオルガンの音色が流れている。カヒが弾いているのだ。
 導師なりにソラに猶予を与えたのだろう。
 ソラは再度、一礼してその場を離れた。
 カヒの元へと行く途中、何気なく振り返ると導師は一人の男と話していた。今まで気配を感じさせずにいた男にも驚いたが、導師が珍しく怒気のこもった声を出していることも、ソラの心をざわつかせた。
 男と視線が合いそうになったソラは慌て先を急いだ。



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