消えていく街
1. ザイオン(1)


 ザイオンは不思議な街だ。華やかなネオンが毒々しく目に映る、人々が眠らない区域にある街のことだ。
 ザイオンには様々な階層の人間が集まる。階級の違いが顕著なこの国で、それは奇跡に例えられる。階級の低い人々が唯一、堂々と生きていける街なのだ。
 街の中央には聖堂が建てられ、そこでは国教とは異なる宗教を信仰している。その教えは、階級の垣根を越えてザイオンに住む人々の間で浸透していた。曰わく、既存の社会により不当な扱いをされていた者程、その教えで崇拝されている存在に近しいのだ、と。
 その教えはザイオンを越えていき、広範囲からザイオンへと移住する人々を生んだ。
 だから、とソラは思う。だから、自分はここで生きているのだ。
 ソラは拾われてきた子だ。居候している聖堂の宣教師が、雨の日に拾った子だという。とても遠いところからやってきたのだと言われ、ソラは想像の中の故郷に思いを馳せる。水の都といわれる北の街だろうか。花が咲き乱れる南の街だろうか。争いの絶えない東の国境近くやのどかな西の街――。 そのどれにも行ったことはなかったが、自分のふるさとだと思うと親近感が湧いた。
 けれど、「川の向こう側」だけは例外だ。あの、異様で重々しい雰囲気の柵が張り巡らされている向こう側だけは、自分のふるさととは考えられなかった。
 ソラは箒をはわく手を休めた。聖堂の周りには黄葉した落ち葉が沢山積もっている。その枯れ葉を踏みながら歩く子供とその親がソラに挨拶をする。ソラは会釈を返す。すると親子はソラに二言三言話しかけ、彼はにこやかに話を聞く。
 親子が聖堂の方へ去って行くと今度は年配の夫婦がソラに話しかけてくる。ソラは笑みを絶やすことなく、二転三転する話に耳を傾ける。やがて、老夫婦も聖堂へ入っていく。同じことを何度も繰り返すがソラは変わることなく人々の話を黙って聴いた。
 誰もがソラのことを好ましいと思っていた。ソラが宣教師の見習いであることも好意の理由だったが、もう一つ大きな理由がある。
 ソラが彼らの崇拝する存在に近しいからだ。ソラが拾われた雨の日から、彼は口がきけない。



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