消えていく街
2. 革命家(6)


 彼らが何故こんなにも気にかかるのか、ソラは自分でも不思議だった。
 知らない人たちだったが、どこかで会った気がしてならなかった。人としての大切な何かを無くした、光を通さない暗い瞳。確かにどこかで見た気がーー。
「あまり目立つようなことをせず、今日が終わればいいんですがね」
 サワが疲れた様子で言う。
「カヒが来るというなら、それも叶わぬ夢でしょう」
 その言葉に被せるように破裂音が響いた。誰かが、爆竹だ、と叫んだ。呼応するように音は続く。
「来た……来たぞ、『至井』だ」
 熱に浮かされたような叫びが上がった。
(シセイ……)
 ソラの知っている『紫井』とは違うニュアンスを感じた。
「こちらへ……!」
 比較的安全な場所へとサワが誘導しようとする。周囲の人々も同じ考えのようで、二人は集団の中をほとんど流されるようにして移動した。
 その頭上から、舞い降りるものがあった。それは、バラバラに引き裂かれた紫色の紙だった。
「これが私たちの声だ!」
 混乱の最中に、よく通る声が響く。その声をソラは知っている。引き止めようとするサワを振り切って、ソラは声の主を確かめるべく、人の波を逆行した。
 押し返され、時には舌打ちや罵声を浴びせられても怯まなかった。
「これが俺たちの声だ!」
 今度の声はまだ記憶に浅い。おそらく声だけでは誰だか分からなかっただろう。ソラはその男がーーイチが小型の熱気球を数個飛ばすのを見た。
 何度目かの破裂音が起こり、紫色の紙切れが降ってくる。午後の日差しを照り返して、場違いな光の乱舞を見せる紙片たち。
 ソラは後ろ向きのまま人の動きに揺られていった。
 人々が落ち着くとソラは途端に困った。今の今まで、ソラは足を浮かせた状態で流されていたのだ。中途半端な人の勢いに体は不安定になる。
 ふらつくソラに苛立ちを見せる人もいれば、気遣いの声をかけてくれる人もいた。ソラは、そのどちらにも申し訳なさそうに頭を下げた。
「あんた、こっちだよ」
 見かねたのか、一人の老女がソラの腕を引いた。老女は意外な敏捷性を見せて波から離れた。ソラの方が、腕を引かれつつ追いかけるのに手間取った。
「ここでいいかね……。あたしはゆっくりして行くから、あんたは好きに行きなさいな」
 彼女は廃ビルのエントランスの柱に寄りかかって座り込んだ。



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