消えていく街
2. 革命家(5)


 カヒに会えるという期待とカヒを失うのではないかという不安を心に抱え、ソラは朝を迎えた。
 いつも通りに聖堂の掃除と礼拝を終わらせる。
「待ち合わせの時間は決めているのですか」
 サワの問いにソラは固まった。
「決めていないのですね」
 カクカクと頷くソラにサワは追い撃ちをかける。
「待ち合わせ場所もでしょう」
 ソラは、もしかしたらこの事を理由に西地区行きを中断するのでは、と思った。
「いいでしょう。……時間も場所も分かります。そんな顔をしなくても、ちゃんと西地区へは連れて行きます」
 途端に表情を輝かせるソラに、サワは苦笑を浮かべた。
「あなたには敵いませんね」
 ソラは気づくことはなかったが、その笑みは深い慈愛に満ちていた。


 西地区は、無法地帯であるザイオンの中では珍しく行政の手が加えられ、統制のとられている地域だった。安全性と暮らしやすさに満足している市民も多い。ただ、それは階級の高い者たちの意見だった。ほとんどの市民は上からの圧力や、謂れのない差別に苦しんでいる。
 しばしば起こる暴動は、彼らの声なき叫びを代弁したものだった。
 ソラは高層ビルを見上げる。政府非公認のサイクルで回る時計が、ビルの壁面で時を刻んでいる。それが虐げられている者たちの唯一の反発だというようにーー。
 その時計が14:00を指した。
 奇妙な緊張感が場を支配する。
 高級車が滑るように『川』の監視ビルの前に車体をつけた。周りを囲むのは鋭い目付きの『護衛』たちだ。
 ソラは彼らを物珍しく見ていたが、サワに注意を促された。
「そんなにあからさまに見るものではありませんよ。余計な注目を浴びます」
 サワの言うことは最もだった。けれど、彼らがとても気になった。
 人殺しを合法とされて以来、政府公認で殺人を行う『紫井(しせい)』は恐怖と蔑視の対象だ。『護衛』は『紫井』の一種だが、他の『紫井』に比べると微妙に立ち位置が違う。
 彼らは主に主人を文字通り守るが、それは同じ『紫井』の『暗殺者』から主人を守るということである。殺す相手は同業者であり、自ら進んで殺人を行う訳ではない。



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