消えていく街
2. 革命家(4)


 ザイオンから離れたことのないソラには、西地区に行くこと自体が一大事だった。まず時期が悪かった。『川』に隣接している西地区では暴動が起きやすく、『川』の彼岸と此岸を繋ぐ『橋』の付近ではいつも警備隊が目を光らせている。その視察に政府の高官がやって来る時期だった。警戒線が敷かれ身元確認をされる。この時点でサワは猛反対だった。
 ソラたちの着る法衣が目立つというのは防寒具を羽織ることで解決した。季節も丁度、乾季だったため解決策が見つかるのも早かった。
 何よりも大変だったのは導師を説得することだった。何度かの攻防の末、結局はサワもソラに同行するという条件で許された。
「あなた一人で不案内な西地区に行けると言うのですか」
 呆れたように言われ、その事実に納得するしかなかった。
「カヒと約束したのなら仕方ないですね」
 サワは溜め息混じりにそう言った。
 ソラはサワにもカヒにも申し訳ない気持ちになった。そうして、ただうなだれているだけのソラに、サワは妥協案として自分も同行するという条件を告げたのだ。
 カヒは嫌がるだろう、とソラは思った。彼女はイチとは違う理由で、サワのことをあまり好いていない。唯一、父親のリトだけを慕っていた。もっと言えばリト以外の大人を信用していないのだ。
 同年代のソラや幼い子供には屈託のない笑顔を見せるのに、大人にはどこか緊張した面持ちで接する。その瞳には不安と怖れが揺らめいている。そして、カヒに相対する大人たちは本当に信用できるのか、という猜疑心も見受けられるのだった。
 西地区に来て欲しい、と告げた時、カヒはソラに対して初めてその表情を見せた。それはソラの心に一抹の不安を呼び起こした。
 カヒの気持ちが自分から離れていくのではないか。せっかく築きあげてきた関係が壊れるのではないか。
 その不安が西地区でカヒと会うことに繋がるのかどうかは分からなかった。カヒが疑心暗鬼になるのならば、それはソラの方から関係を放棄することを心配してのことなのではないか、とも思われる。
 そんなことが果たしてあるのだろうか。ソラがカヒと距離を取らざるを得ない状況になるのではない。ソラがカヒを嫌いになることが。絶対にないとは言えない。
 ただ、今この瞬間に彼女を好きだという気持ちは揺らがないと思えるのだった。



[9/12]
[ 9/12 ]

[] []
[目次]
Top


[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -