hell or heaven
あなたに連れられた 4


 新聞の電源を切ると何も書かれていない『紙』に戻った。テーブルの脇のホルダーにしまう。微かな電子音を立てて充電が始まった。
「ツァサ、メールが来てるよ」
 小さな、人の親指程のサイズの鳩を模した電子の画像が胸元辺りで旋回していた。タッチすると、メールの文章に姿を変える。
「支部の託児所からだ」
 正直な話、読みたくなかった。もう面倒なことに関わりたくない。だが双子の催促の視線が痛くなり仕方なく目を走らせる。
「一回、託児所まで来て欲しいそうだ」
 双子はそれだけでは説明が足りないと不満そうな様子だった。メールに触れて手を軽く振り双子の方へ滑らせる。
「また支部に行かないといけないのか」
 頭を抱えてうずくまりたい衝動に駆られる。
「ハイシロ、ヘイクロと一緒に行って来い」
 現実逃避に絞り出した言葉は、自分でもいい案だと思えた。
「無理だよ。世帯主が行かないと、話が進まないじゃない、支部は」
「委任状書くから」
 支部だけではなく本部もなのだが、そんな細かいことはどうでもいい。
 このまま押し進めようとするが思わぬ障害があった。
「ツァサ、俺も行くから、お前も来い」
 黙ってメールを読んでいたヘイクロが重々しく言った。拒否しようとして口を開くが、目で念押しされ、出かかった言葉を飲み込んだ。ヘイクロがこんな風に言う時は逆らえない。
「これも何かの縁だ。最後まで付き合おう」
 ヘイクロは一見何を考えているのか分からないようだが、情が篤いところがある。あまり動かない表情には、この件のことを真剣に考える様子が窺える。きっと、誰よりも自分のことのように思い悩んでいるのだろう。
「そうだよ、託児所行こう。赤ちゃんにもう一回会いたい」
 ハイシロはヘイクロと同調するのが癖になっている。だが、自身は事態をそこまで真剣に考えていない節がある。
 思わずため息をつく。発した言葉はやけに不機嫌な声になった。
「会ってどうするんだよ」
「難しく考えなくてもいいじゃない」
「赤ん坊を引き取ってくれって言われたらどうするんだ」
 さすがに腰が引けたのかハイシロは言葉を詰まらせた。
「それはその時に考えればいいだろう」
 ヘイクロが妹を庇う。
「何か向こうで困ったことがあったんだろう。手助けするくらいは構わないんじゃないか」
 もっともな意見を言われ、今度はこちらが口を噤んだ。




[ 7/13 ]

[] []
[目次]
Top


[しおりを挟む]


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -