hell or heaven
あなたに連れられた 3
赤ん坊をヘッドストーン支部内に設けられている託児所に、無事預けることができた。この先は、中央の仕事だ。毎週告知されるお知らせに、迷い便として記載されるだろう。
だが、気の遠くなる作業だ。何しろ送付先のアドレスから分かる情報が、国内であること、heで始まる区または町であること、最後の番地がa13であること、という三つしかないからだ。受けとった際に降った雪でインクが滲んでいたのだ。
heで始まる区か町が国内にどれだけあるか、数えるのを放棄したくなる程だ。
まずは、このheadstone地区からの捜索になるだろう。迷い便のお知らせもこの地区のものにだけ載るのかもしれない。
だが、新聞やニュースはどう出るか分からない。案外、全国区で取り上げられるかもしれなかった。コウノトリ便の誤送など、今までなかったのだから。
或いは、首都に置かれている国の機関、『コウノトリ』に問い合わせるのだろう。こちらは望みが薄い。コウノトリ便が郵送されれば、自動的に個人情報が破棄されていくのだ。
一番早いのは、本当の両親からの届け出を待つ方法だ。それには、本部と支部の連携が必要だが、残念ながらヘッドストーン支部は本部と馬が合わない。おそらく、調査の進行具合は牛歩になるだろう。
諸々の問題が見えるが、あとは中央の仕事だ。自分たちにできることはない。そう思っていた。
***
「まだ見つからないのか」
ネット配信される新聞の記事を見て、ヘイクロが呟いた。朝食後の時間のことだった。
「まだ!?」
一際、大きな声を上げて、ハイシロが画面を覗き込む。仕事帰りでよれよれになっていたが、途端に意識をはっきりしだした。新聞をひったくると該当記事を睨みつける。力が入るあまり新聞の画面がしわくちゃになった。
「『…両親の名乗り出は未だなく、全国からは養子として迎えたいという声が多数寄せられている…』」
地を這うような声で音読すると新聞をテーブルに叩きつける。
「本部が支部に情報提供してないのかもな」
「どうせ、支部の方が自分たちで見つけて自分たちの手柄にしたいと思ってるんだよ」
「どっちにしても赤ん坊にとっては迷惑だな。あれから二カ月経ったっていうのに」
テーブルの上で無残な姿になっている新聞をきれいに折りたたみ、一面に出ている記事を眺める。隅の方でコーナーが設けられており、赤ん坊の成長記録が毎日のように載っていた。
赤ん坊は日々成長を遂げている。親を探して方々を駆けずり回る大人や、自分の利益のためだけに画策をする大人たちの思惑などには関心がないと言うように。
[ 6/13 ]
[←] [→]
[目次]
[しおりを挟む]