hell or heaven
あなたに連れられた 2


 赤ん坊をハイシロからもらいうけミルクを与えているとノックの音が響いた。ドアを開けて背の高い痩せ型の男性が入ってくる。
「やあ、よく来たね」
 穏やかに笑みを浮かべた鬼は、向かい側のソファーに腰をおろした。
「どうせ、面倒事持って来やがってとか考えてるんだろ」
「そんなことはない。その面倒事のお蔭で私の給料が出る。有り難いことだ」
「いいけど、今回はあんたの守備範囲じゃないぞ」
 リウリョクは赤ん坊に目を向ける。少し考える素振りをして重たく口を開いた。
「似ているな」
「リウリョクさん!」
「……あんたもそう思う?」
「ツァサまで……」
 リウリョクを鋭く制止したハイシロは力なくうなだれた。
「ハイシロは相変わらずだね。友達思いでいいことだ。だけど、この男は薄情者だよ」
「そんなことは、ちょっと、あるけど」
 張り倒したかったが両腕は赤ん坊に取られている。耐えるしかなかった。
「コウノトリ便の誤配ね。お前がまた問題を起こしたんだと思ったんだよ」
「窓口の受付係が勝手に誤解したんだ」
「ああ、記録簿の中に素行の悪さが記載されていたから保安課の方へ報告が行きかけていた。私が止めたがね」
「法務課のあんたが、偶然?」
「まさか」
 底意地の悪い笑顔を見せてそれ以上は言わなかった。
「とりあえず、この子を預けたいんだけど」
「24時間体制の託児所があるからそこに頼もう。職員以外は原則無理だが、原則には例外がつきものだからな。何とかなるだろう」
「助かる」
「ありがとうございます」
 リウリョクは鷹揚に頷いてそれに応える。それから赤ん坊がほ乳瓶のミルクを飲み終わるまで見つめていた。
「私にも抱かせてくれないか」
 赤ん坊を渡すと慣れた様子であやし始める。赤ん坊が喜んで笑い声を上げる様子に目を細めた。
「ああ、あの子が帰って来たみたいだ」
 ハイシロは今度は制止しなかった。
「お前とフォンオウとの子もこんな風に抱いたな」
 沈黙が続いたが重たいものではなかった。リウリョクがこんなに穏やかに言えるようになったのは、それだけ時が経ったということなのだろう。それぞれがそれぞれに負った傷は、癒やされようとしている。
 だが、自分は今でも思う。
 10年前、失ってしまった命を今も愛している。




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