hell or heaven
あなたに連れられた 1


「ママですよー」
「パパだ」
「双子が両親かよ」
「ひがむなポチ」
「……覚えてろよ」
 赤ん坊は嬉しそうに声を上げた。

***

 ヘッドストーン支部通信課迷い便係まで誤配の報告をしに行くと、福祉課のコウノトリ便係に誘導された。福祉課に行って一通り説明をすると、今まで頷きながら話を聞いていた係員は今度はまた通信課に行くように言った。そこまでは良かった。
 書類を書く段になって受付係の不信な視線が痛くなった。個人データを画面上で確認していた受付係は、硬い口調で言った。
「……研究者、ですか」
「はい」
「どちらにお勤めですか」
 どこにも属していないと伝えると相手の不信感は更に募ったようだ。
「許可証をお持ちでしょうか」
 黙って許可証を見せると、受付係は怪しい、と顔中に書きながら、少し待つように、と言って席を立った。
「担当の者に変わりますってなんだ? 自分が窓口の係なんじゃないのか」
「まあまあ」
 返された許可証を破きたくなるのを抑えた。
 ヘイクロは仕事が抜けられず、仕方がないので自分とハイシロで支部まで来たのだ。
 研究者は国立研究所に属するのが普通だ。アウトサイダーは大体が国によって駆逐される。だから、国からの許可を受けるのが何よりの生き延びる方法だ。
 立場上、疑いの目で見られることは慣れているが、ぞんざいな扱いをされるのは腹が立つ。だが、自分の場合は自業自得な部分もあるので仕方ないと諦めるしかない。
「あの人に会う前に帰りたいのに」
 柔和な顔をした鬼を思い返して、眉をしかめた。今日もお小言をもらうのかもしれない。考えただけでも逃げ出したくなる。それなのに、戻ってきた受付係は頭を低くして告げた。
「申し訳ありません。こちらへどうぞ」
 先導された所は小さな部屋だった。机とソファー、暖房器具がこじんまりと置かれている。苦い思い出しかない場所だ。
「説教部屋かよ」
「懐かしいね」
「お前はあの人好きだからな」
「リウリョクさんは優しい人だよ」
「あの人はお前好きだからな」
 並んで座り、待つ間にハイシロが抱いている赤ん坊が泣き始めた。お腹がすいたのだろう。
「可笑しいなとは思ったんだよね」
 ミルクの用意をしていると隣のハイシロが呟いた。
「コウノトリ便が来る割には何の準備もしてないんだもん。ツァサはなかなか帰って来ないし。赤ちゃんはお腹すかせて泣いちゃうし。その内オムツも替えないといけないし」
 結局、双子が交代でお守りをしながら、必要なものを買いに行ったらしい。
 感謝の言葉も詫びの言葉も出なかった。元はコウノトリ便の誤配のせいなのだ。ただ苦笑いするしかなかった。




[ 4/13 ]

[] []
[目次]
Top


[しおりを挟む]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -