hell or heaven
あなたに連れられた 10



 『疑似』――疑似家族はその名の通り家族に似て非なるもの、或いは現代のもう一つの家族の形だ。扶養家族保持適齢期を超えても婚姻関係を結ばない者同士が、複数名家族の役割を割り振り合って構成されている。主に結婚したくない者たちの隠れ蓑になっている、と為政者は煩いがそういったケースが全てではない。だが、自分たちは確かにこの隠れ蓑に頼ってきている。そこを突かれると痛い。
「『疑似』は、本当の家族を持っちゃいけないのか」
 リウリョクもこれには即座に頷かなかった。
「本当に迎え入れたいなら、まずは身の回りを整理しなさい。それに付け加えてお前はアウトサイダーだ。その扱いは支部(ここ)で嫌というほど身に染みているだろう。そんな家族のもとに支部がキファンを養子縁組させると思うのかい?」
 身から出た錆とはこの事か。悔しさに唇を噛む。
「リウリョクさん。では、今回俺たちがここにいるのはどうしてですか」
 静かに切り出したのはヘイクロだった。うつむいていたハイシロが何かに気づいて顔を上げる。
「そうだよ。リウリョクさんが私たちを推薦したんでしょう? どうして?」
 答えが分かりかけた学生を見つめるように、リウリョクの表情が和らいでいた。
「どうしてだと思う?」
 あともう少しだよ、とリウリョクの目が言っている。
 その目を見返して、決意した。この人は本当に鬼だな、と思いながら。
「リウリョクさん。俺は、既に一つの命を失ってる。そんな俺が言っても説得力ないかもしれないけど、俺たちは本当にキファンを大切にする。一時の感情に任されてじゃない。」
「では、その覚悟のほどを見せてみなさい」
 5日間で、という言葉に眉根を寄せる。
「短い。一月半もらいたい」
「そんなに長くは待てないよ。いくら時流がスローライフだろうともね」
「『疑似』の関係と俺の職の身辺整理だろう。支部どころかか本部も絡んでくる。役所仕事は時間を食う」
 一週間、いや一月、と数字が飛び交うのを、ヘイクロは眉一つ動かさず、ハイシロははらはらとそれぞれ見守っている。
「分かった。半月だ。それ以上ならこの話は無しだよ」
「半月だな」
 なんとかなるか、とやや尻上がりに呟くと、派手な音を立てて後頭部を叩かれた。
「信じられない! キファンちゃんの人生がかかってるのに値切り交渉みたいに……! 本当に真剣に考えてるの?」
 ハイシロが吠える。信じられないとは言うものの、命の値切り合いなど現代では当たり前だ。人生は金で買うのだ。そして、金は時と同じ価値を持っている。
「リウリョクさんもっ」
 まさか自分に矛先が向くとは思っていなかったのであろう。はい、と上擦った声をあげてハイシロの大音声に耐えている。
「ツァサは、こんなだけど――私たちは、真剣、です。試すようなこと、しないで」
「……すみません」
 殊勝に謝る様をできることならこの目に焼き付けたかったし、「ハイシロ、元気なのもいいけどほどほどにな」というヘイクロにそういう問題じゃないと言いたかった。しかし叩かれた衝撃と耳から響く爆音に頭が揺れて、呻き声しか出てこなかったのだった。




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