夜は魔法使いのため
第一話 鐘は誰がために 6


 風がフィデリオの頬を撫でている。
 現実に戻ったフィデリオは本館へと足を踏み入れた。玄関は吹き抜けになっていて天井が高い。籠りがちな学院内の空気を入れ換えるのに、大いに役に立っている。
 玄関から東西に伸びる回廊に添って教室がある。一年生の学ぶであろう教室が一番近く、学年が上になるにつれて教室は遠く奥深い所になっていく。既に授業を始めていて、二年生以上が机にかじりついていた。
 移動の時間を短縮する為、魔法陣が必要になってくる。慣れた者には簡単な近道であったが、そうでない者には入り組んだ複雑な手段だった。フィデリオにも覚えがある。魔法陣を構成する古代文字は初めて見る者には見分けがつきにくい。近道として踏んだ陣が、実は全く的外れなものであったりする。上昇する時と下降する時、それから往路と復路の陣は違っている。つまり、一方通行なのだ。戻る為の陣を見つける為にさ迷っていれば、いつの間にか袋小路に入り込んでしまう。
 自分の記憶を手繰り寄せ、一番迷い混み易いのはどこか考えた。浮かんだのは魔道具保管棟だった。中は長い間使われない道具で溢れ迷宮のようになっている。初めての者にとっては容易には出口は見つからない。だが、棟から一歩外に出れば道は簡単だ。
 他にも候補はいくつかあったが、フィデリオはまず魔道具保管棟を目指した。
 魔道具保管棟は魔道具の暴発を防ぐ為に魔力を沈静化する作用が働いている。更に魔法陣の使用を禁止された区域だ。一番近い魔法陣まで行っても、長い回廊を進まなくてはならない。
 フィデリオは魔法陣を踏み、光に包まれては消え、別の場所に移動してはまた消えていくのを繰り返す。目的の陣まで着くと、眼前にどこまでも長く続く回廊が広がる。改めてその長さにため息が漏れ、件の少女はこの距離を見て引き返さなかったのだろうかと疑問に思った。
 だが、幸運なことに向こう側に人影が見える。フィデリオは幾分疲れた足を前へ前へと進めた。少しして、後ろから誰かが追いかけてくる。アルフォンソ学院長だった。フィデリオはそれに気づくとアルフォンソを待った。
「式を抜け出してすみませんでした、学院長」
「私も同罪だ。あの子の姿がなくて心配でね。祝辞の後すぐ聖堂を出た」
 アルフォンソは既に他の場所を探したが少女は見つからず、そこから近くの魔法陣を踏みこの場所へと来たらしい。フィデリオはアルフォンソよりも遠回りしていたようだ。
「それより、あの子は見つかっていないようだね」
 前方を見据えてアルフォンソは息を吐いた。



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