夜は魔法使いのため
第一話 鐘は誰がために 5


「貴方の杞憂も、彼が入学すれば解決できるでしょう。魔力を統制する方法を正しく学ばなければならない」
 何か言いたそうなヘルムの顔が赤くなったり青くなったりを繰り返した。自分の利になるものがないかと聖堂内を隈無く見定めると、副学院長に目を止めた。
「ローザ! ローザ・ルクス副学院長! ――貴女はどうお考えで?」
「わたくしは――」
 ヘルムに背を見せたままで、ローザ副学院長は冷たく言った。
「学院長のお考えに賛同したいと思っています」
「何ということだ!」
 嘆かわしい、とヘルムは怒りをあらわにした。
「闇派の言うことに迎合するとは。貴女は我らと同じ光派のはずだ」
 聖堂内がざわついた。大人たちの半数がヘルムの言うことに頷いている。もう半数はヘルムに対して敵意を剥き出しにした。敵意を見せる――おそらく闇派の人々は、怯えと反抗を示していたことを忘れて、アルフォンソの意見に味方していた。
 今や、フィデリオの入学を認めるか認めないかではなく、派閥の対立となっている。
 離れてその様子を見ていたアルフォンソは未だに笑みを絶やさない。
「では」
 アルフォンソが一言、声にする。途端に場が静まる。
「本人の希望を聞くことにしよう。――君はどうしたい」
 フィデリオは驚く。急に話を振られたので、頭が追い付かない。
「君は入学したいかね。したくないかね」
 その言葉には作為を感じなかったが、アルフォンソの目は、フィデリオが入学すると一言頷くことを切望しているようだった。
 フィデリオは考える。自分は人を殺したくない。学院に入学して魔力を制御する方法を身につけることは甘美な夢に思えた。
「入学、したいです」
 その答えにアルフォンソは満足気に一つ頷いた。
「よろしい。――皆、聞いての通りだ。我が学院は門戸を叩く者に広く間口を開いている。フィデリオ・トライチュケの入学を許可する」
 この時からフィデリオは、一魔法使いとして学院に入学した。
 誰も言葉を発しなかった。
 ステンドグラスの割れた所から、風が吹き抜ける音がする。物哀しい響きが、誰かのなき声のように聞こえた。



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