夜は魔法使いのため
第一話 鐘は誰がために 7


 人影が見えたことを伝えると、アルフォンソは、マリアではないだろうと言った。
「ここに彼女の気配はないようだ」
 アルフォンソは珍しく疲れた様子を見せると、行こう、と回廊の向こうを目指した。長い道のりを二人で歩く。
「学院長ご自身が探すなんて大変じゃないんですか」
「いいや、大変だなんて思ったことはないよ。あの子もよく私たちに、迷惑をかけてごめんなさいと謝るんだ。けれど、私たちは迷惑だとは思わない」
 アルフォンソは疲れた顔に少し笑みを見せた。
「むしろ、あの子たちに迷惑をかけているのは私たちの方なのだから。あの子が人並みの幸せを掴めるためなら、迷惑をかけられるのも悪くない」
 フィデリオは学院長がそこまで言う少女のことに興味を持った。だが、何も訊かなかった。余計な詮索と好奇の目がどんなに苦痛か分かっていた。
 その気配を感じとったのか、アルフォンソの方から話し始めた。
「マリアは私の家族でね」
 フィデリオは耳を疑った。信じられないという思いが表情に出たままアルフォンソを見た。
 全く逆のことーー結婚せず子どもがいないことで、派閥内で論争が起こっている位だった。アルフォンソは童顔だが、もう高齢で後継ぎがいないのだ。
 アルフォンソはそれを見抜いて笑いをこぼした。
「あぁ、言い方が悪かった。家族のように接している子でね」
「いつからですか」
 フィデリオは半ば義務的に訊いた。
「生まれた頃から。あの子の両親が私の教え子だったんだ。とても苦労をさせられたよ」
 口ではそう言いながら、アルフォンソの表情は優しかった。
「ご両親は何をしていたんでしょうか。聖堂に着くようについていれば良かったのに」
「それは、両親はもう亡くなっているからだ」
 フィデリオは不用意な発言を悔いた。これ以上は聞きたくないのにアルフォンソは言った。
「彼らは第一回廊にその名を刻んでいるよ」
 誇らし気なその言葉が幾分かは慰めになった。第一回廊は学院の奥深くにあり、過去の偉大な魔法使いの名と胸像が刻まれている。
 ふと思いついたようにアルフォンソが声を上げた。
「マリアは第一回廊にいるかもしれないな」
「何故ですか」
 一人で行くことができるものなのだろうか。
「私が事ある毎に第一回廊の話をしていたからね。地図まで書いた」
「それでも幼い子どもが一人でなんて」
 アルフォンソは一つ瞬きをすると、得心がいったように笑顔になった。



[8/8]
[ 8/8 ]

[] [→]
[目次]
Top


[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -