※デンミカ前提の、DPtから数年後設定。
小さいころからあたしはデンジくんになついていて、彼の回りにコロコロと転がるように出没してはジムに籠って改造ばかりに明け暮れる年上のお兄さんと遊んでやる、という気持ちが大きかったのだけれど、今になってみるとどうだ。視点が変わってやっと見えてきたその力量関係は幼いあたしの勘違いで、きっと、というより絶対、デンジくんが小娘と遊んでくれていたというのが実態なのだろう。
「そんなことに気づくくらいには大きくなったんだよ、デンジくん」
「それは良かったな」
「…改造の片手間で会話されてもなあ…」
あんまり嬉しくないよ、と口の中でもごもごと丸め込むように呟いた。バチバチと火花を散らす溶接の作業を遠巻きに見つめる。なんというのだっけ、作業する人が火花から顔を守るためにつけるあの厳つい仮面のような板に阻まれてデンジくんの表情はよくわからない。
ほんのすこし顔を近づけたら「危ないからやめろ」とぴしゃり。
危ないのはわかってるよ。火花が飛んでくるようなところまでは近づかないよ。そんなおバカさんなことしないよ。だってあたしも大きくなったもの。なんて、いくら言葉を重ねようがデンジくんの耳には入るまい。火花と溶けていく金属のほうが今の彼にはよっぽど大事だ。
「…チマリ、あのピカチュウの着ぐるみはもう着ないのか」
ぼそりと聞こえたデンジの声にいつのまにか沈んでいた顔をあげた。着ぐるみ、というか、なんというか。あれ、そういえば結局あれは何だったんだろう。
「もう着ないし、着れないよ。それともなに、着てきてほしいの?」
「バカ言え。チマリが今よりチビだったころの代名詞みたいなもんってあれぐらいだと思っただけだ」
「他にもいっぱいあるよ!ほら、例えば」
「ジョウトに帰っちゃったミカンお姉ちゃん!」
∴はじけたおはなし
そのあとのあたしの顔は、きっとびっくりするほどおかしかっただろう。ミカンお姉ちゃんの話題を出したあとに急に変な顔をしたデンジくんのことを言えないぐらいに。
だってそんな、思わなかったのだ。デンジくんが今まで見たことない、泣きそうな顔するなんて。ミカンお姉ちゃんとデンジくんはとっても仲良しで、仲良しだったはずで、それはもう、ミカンお姉ちゃんにヤキモチをやいてしまうようなぐらいで。
懐かしいなって、一緒に笑ってほしかっただけなのに。
デンジくんとミカンお姉ちゃんが恋人だったのだと知ったのは、それよりあとのこと。
20131018