「クダリさんは結婚しないんですか」
ずっとずっと気になっていたことだった。なんでかな、どうしてかな。でもそういうのはすごく複雑な事情があったりするもので尚且つトップシークレットならぬトッププライベート?なものだということを薄々感じ始めていたから訊くまいと思っていた。
パパとママもね、今こうして幸せにトウコと暮らしているけれど、一緒になれるまではたくさんの障害があって、何度も挫けそうになったのよ。今は諦めなくてよかったって心の底から思うけど、ね。
そう言って頭を撫でてくれた母の口から語られた、両親が結婚するまでのまさに大恋愛と呼ぶべき数々の出来事にトウコは目を見開いたものだ。
だから余計、他人様のそういうことに首を突っ込んではいけないと思っていたのだけれど。
(…言っちゃった)
口を慌てて押さえても出した言葉は戻ってこない。こわごわとクダリを見るとやっぱりきょとんとしていた。ダブルトレインの7両目。クダリに勝ってトレインがホームに着くまでの時間がここまで気まずくなりそうに感じたのは初めてだった。
穴があったら入りたい、ないならワルビアルに掘ってもらえないかななんてすこし吹っ飛んだことを考えたところでやっとわれに返る。「今の、気にしないでください」。トウコが言う前に、クダリが素敵に笑った。
「親がお見合い持ってきても、ノボリが全部断っちゃう」
「へ、へえ…」
「ノボリ、心配性。ぼくもべつに気にしてない。結婚できるかな、どうなんだろう」
「…もしも私が売れ残ったときは、私をもらってくれます?」
「うーん、トウコ可愛いからそんなことならないと思う。でも、うん。そのときはケッコンしよっか」
そう言ってケタケタ楽しそうに笑うクダリはトウコが一世一代の大賭博をしたことに気づいているのだろうか。身体中が熱をもつのを感じながら、トウコはクダリが差し出した小指に自分のそれを絡めた。
∴結んだ赤い糸
20131008
トウコちゃんだったらお兄さんのお許しも出ると思いますよ。