「ヒビキくん。おかえりなさい」


ふんわりとした声と僕の首に回された腕。わりと素敵で背伸びしたお迎えだと思うのだけれどやはり大人のそれに比べると、…なんていうんだろう、デンジャラスな感じというかどこか際い危うさというかそういう色香がほとほとない。

いいんだけどね、それでも。
むしろ僕がいない間に彼女がそんな女らしさを身につけずにいてくれて、嬉しい。

ずっとずっと彼女を見てきた。旅に出るまで毎日顔を合わせていたような仲なのだ。コトネのママだって知らないこともあるいは知っているなんて自負もある。本当は今だって、見ない間にまた背が伸びて、すこし髪がのびて、女の子らしくなったコトネに戸惑っていないわけじゃないのだ。
まだまだコトネのそばで一緒に大人になりたいし、けれど僕はきっとまた旅に出ることになる。僕が帰ってくるまで成長せずに立ち止まっていてなんて口に出すこともこっそり願うこともただの傲慢だって知ってる。だからせめて次に帰ってきたときのために今のコトネを目に焼きつけておこう。

お返しがわりにコトネの背中に手を添えた。ドクンと騒がしくなった心臓は無視してただいまとだけ呟く、なにより幸せだと思った。




∴三歩先にはいかないで





Title.SAKU SAKU
20130928



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