「やあコトネちゃん」
「あ。こんにちはワタルさん」


セキエイ高原のポケモンリーグに併設されたポケモンセンター。
チャンピオン戦で疲れただろうパートナーたちを回復させるためにワタルがそこに寄ると最近知り合った少女が先客としてパートナーの治癒を待っていた。
挨拶をすれば当然のことながらきちんと返す。些細なことながら、きちんとそれができる子は親御さんがきっちりしつけしたんだろうなあと思うのだ。なんだか微笑ましく、嬉しく思ってしまう。

ワタルはジョーイにポケモンたちを預けるとコトネのいる待ち合い用のベンチに腰かけた。


「ポケモンたちの調子はどうだい」
「はい。みんながんばってくれてます」
「へえ、そうかい。じゃあリーグに挑戦してくれるのも時間の問題かな?」


途端、コトネの顔色が変わった。居心地悪そうに目をそろりとうつむかせて、けれど黙りを決めこむわけにもいかないし、しかしどう言ったらいいものか決めかめている。
そんなことを逡巡するような奇妙な間があったあと、おそるおそるといった風にコトネは口を開いた。


「リーグに挑戦するのはまだ先かなあって」
「怖いかい?」
「…はい」


素直な答えにワタルは笑う。これが年相応であり、そもそもロケット団を壊滅まで追い込んだことが年不相応なのだった。こんな小さな少女なのだ。怒りの湖で出会ったバトルの強い女の子。そのバトルセンスを羨ましく思ったこともあったし、危うく思ったこともあった。

過剰はときにバランスを崩してしまうから。少女の繊細な心が壊れてしまわないかとハラハラしていたけれど。
どうやら大丈夫なようだ。それを悟ってワタルは安堵から息をついた。言い聞かせるようにコトネのおでことワタルの額を合わせるようにくっつける。近すぎる距離に目はつぶった。


「焦らなくていいよ。ちゃんと、ずっと、頂上で待ってるから」
「あ…」


瞼裏で小さな声がひらめいた。やわらかい眼球をつつむそれに唇がくっついて、恥ずかしそうな感謝の言葉が鼓膜から消える頃に開けた目はコトネの明るい後ろ姿しか見えなかった。




∴瞼に憧憬のキスを






Title.SAKU SAKU
20131125




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