空が青く光った。ような気がしてデンジは目を細めた。今日のナギサはからりと晴れている。窓の外を眺めると仲良しこよしの親子連れが遠く彼方に消えるところだった。頑なな結び目が日射しに溶けやしないかと気になって見送っていたが、空回りな節介は空調の効いた部屋に消えた。
部屋に来ているミカンはというと、さっきからテレビと睨みあっている。正しくは、テレビが伝える台風と。ナギサの海の彼方、アサギの方には大きな台風がやって来ているらしい。長い睫毛をはやした瞼を、時々重そうに下げる姿はどうにもこのナギサに似合わない。それは、そうだ。事実はいつも重苦しく、新しい顔のフリをして五臓六腑を転げ回って圧迫する。ミカンは他所の人間だ。
「心配だな?」
「…はい」
「…ミカンは、いつアサギに帰る?」
ミカンのために用意してやったジュースは、口がつけられることのまま放置されて、氷が融けてグラスの底の方が薄まっている。ミカンは未だ、黙ったままだった。聞こえなかったかもしれない。答えたくないのかもしれない。デンジに分かっていることは、もう一度は訊きたくないということだけである。
憂鬱そうなミカンを横目にジュースを奪った。指先が痺れている。臆病な人間の世界はいつまでも短い。
【きみは僕の隣で揺らぐばかりです】
Title.白群
20150726