はやくおとなになりたい。

まずその口調が幼いと思い、次にその言葉の羅列が幼いと思った。はやくおとなになりたい。はやく、はやく。


「そんなに大人になりたいの」
「はい。できるだけはやく」
「どうして大人になりたいの?」


同じような質問と同じような答えを繰り返す。目の前の、まだとても女性とは表せない少女は眺めていた石から顔をあげてその(劣っているという比喩ではなく成人のものと比べた子どものものらしく、という意味で)小さな頭をぐるんぐるんまわす。どこに答えがあるかは分からなくてもどこかに答えがあると確信しているようで、その根拠のなさがまた幼いとダイゴに思わせた。


「いろんなことができるから」
「へえ」
「ダイゴさんは忘れているかもしれないけれど、子どもって、できないことだらけなんです」


ハルカはそう言ってまた、ガラスケースに陳列された石に興味を戻していった。ダイゴは遠くから石を見つめ、ハルカを見つめる。

忘れているわけではなかった。子どもはたしかに無力だ。できること、というよりは、「していいこと」といったほうが適切なような気がすることもちゃんと覚えていた。制限はたしかに、どこまでもついてきた昔。


「…だけどね、ハルカちゃん。大人も案外できることって少ないんだよ」
「それはいじわるですか?」
「意地悪じゃないさ。でも、まあ、…うん。今からこんなことを教えるのは意地悪なのかもね」
「でもダイゴさん、私知ってますよ。おとなはできるのにしようとしないことの方が多いって」
「…言うね」
「ふふ。どこかまちがってますか」


いいや、間違ってないと思うよ。大人の負けを認める言葉に勝ち誇ったように頬をゆるめたハルカは、嬉しそうにくるりとその場でまわった。さっきまで興味のあった石も視界の外に追い出して、くるりくるり。なりたいおとなになる日はちかい。




【木馬に揺られた思春期】






Title.蝋梅
20141226



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