正直、恋愛というものを冷めた目で見ていた。アカネさんのような、一般的な少女たちのように恋愛に必死になることはできないと思った。
たぶんそれは自分に自信が持てなかったことも関係しているのだろうけど、同世代の少女たちと恋の話をするよりもパートナーたちと特訓するほうがよっぽど有意義に思えた。想像できてしまうような恋愛はわたしを急かさず、また、わたしのなにかをうめてくれるパーツの形をしていなかった。
「それってやっぱり、おかしいことだったのでしょうか」
「さあ」
むつかしそうな設計図を目の前にしてデンジさんは心ここにあらず、といったふうに返事した。そっけない対応だと憤慨する人もいるのかもしれないけれど、彼の衝動を煽る存在がある横でちゃんと返事してくれるあたり、とても幸運なことだということをわたしはきちんと知っている。
そういうところがうまく心の琴線に引っ掛かることができたのか、ゆうるりと流れる時間のなかで彼の隣がわたしの居場所になり、わたしの隣が彼の居場所になった。
「ねえデンジさん、最近わかったことがあるんです」
「…うん」
「わたしのなにかをうめてくれるのは、あなたじゃなきゃだめなんです」
設計図から顔をちょっとだけ上げたデンジさんは、「贅沢だな」と言ってすこし笑った。
【未知は幸福なり】
20140812