初めての感触を受け止めたくちびるに無意識に手をあてて呆然とするヒカリとは対照的に、ジュンはひどく混乱しているようだった。こんらん。どうして。しかけてきたのは彼の方なのに?
「こうするしかなかったんだよ」
どうして、と理由を問うための空気を取り込もうと開いた口の動きに怯えるように、ジュンはそう言った。ヒカリがもつはずだった混乱はくちびるが離れたときにジュンがすべて持っていったように思えてならない。ふしぎなくらいにヒカリは落ち着いていたのだ。
だから、すぐに気づけた。ヒカリの顔とジュンの顔とが信じられないくらい近いこと。彼の手がすこし震えていること。目に、ヒカリへの想いがあったこと。
「ねえ、ジュン」
「っ、ほんとに、ごめんな。コウキに誤解されるような、こんな」
「だいじょうぶなのに」
遠くにいってしまいそうな手を引き留めるので精一杯だった。きっと力を抜いたとたんジュンは一度逃げてしまって、ヒカリに謝るための言葉を必死に探してるうちに1年くらいたってしまいそうだ。
まずは、伝えなければならなかった。コウキとは仲良しなだけでそういう関係ではないこと。くちびるが触れたあの瞬間、心臓がにぎやかな音をたてたこと。とてもとても嬉しかったことも、ちゃんと。
【きっと生きた心地がしない】
Title.蝋梅
20140621