北西の部屋で挑戦者を待つ彼は、聞くところによると元は良家の御曹司様だったらしい。元は、という言葉から察するにいまはそうではないのであり、なにやら理由があって没落してしまったのだという。

その話を初めて聞いたとき、なにかがすとんと腑に落ちたのをシキミは覚えている。物語に出てくるような素敵な素敵な御子息のイメージとギーマにどこか共通点を見出だしたのかもしれない。しかし残念ながら、その共通点をすっかり忘れてしまったのだから今となっては首を捻るばかりである。



「肩書きは失っても過去の時間までは誰にも奪えやしないのさ」


挑戦者のいない空白の時間を埋めるためにその話を引っ張り出せば、ギーマはそのポーカーフェイスを少しだけ崩して――とはいっても眉間の辺りがささやかに弛緩した程度で、日々執筆活動のために人間観察を怠らないシキミでなければ気づかなかっただろう――、やわらかいソファに上体を沈ませてそう呟いた。どこか安堵の含まれた疲労の声。
その疲労はもちろん今日1日の作業によるものだろうが、シキミも知らない遠い昔からのそれも混じっているような気がした。あくまでなんとなく。
感じてはいけないことに到ってしまった気がして、得体のしれない後ろめたさにシキミは部屋の壁の隅をじっと見つめた。


「じゃあギーマさんが四天王である時間も、いつまでもギーマさんのものなんですね」
「そういうことになるだろう。キミと私がこうしている時間も、きっと」


意外な言葉にシキミがはっと顔を向ければ、ギーマは自分が容姿に恵まれていることをよく理解しているのだろうといえる表情をしていた。器用にひらかれた片目にシキミが映る。それは他のなによりも確かだった。




∴フライアウェイの真実






Title.SAKU SAKU
20131223




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