「わたしとアクロマさんって、おんなじですよね」


にっこり。読んでいた論文を奪い取ってメイは笑った。アクロマはそんな少女にすこし驚いたように片眉をあげると、口の端に苦笑を刻む。「似てますよね」でさえなく、「おんなじですよね」。もちろん、かおかたちのことを指しているわけではないことはわかっていた。
激しい海流の先でひっそりつながれたプラズマフリゲート。周囲にめぼしいものがあまりないにも関わらず、メイがここにきた理由はたぶんいまのそれのためでしかないということ。


「…はて、同じと判断するにはいささか性急でしょう」
「そんなことないと思いますよ。じゅうぶん時間がたって、やっとわかったことです」
「プラズマ団を壊滅させたあなたとプラズマ団に力をかしていたわたくしが?」
「おんなじです。ずっと前から始まってたことの後始末を、最後の最後にさせられた者同士」


また、にっこり。表情筋がどれだけ年相応の純粋な笑顔を作り出そうと躍起に努力しているのかははかりしれない。そういえばチャンピオンの顔だけでなくポケウッドの大スターでもあるのだと聞いたことがある。けれどアクロマはメイの目のけして笑っていないことにとっくに気づいていた。それは看板女優とは名ばかりで演技がまだ未熟な証拠か、それとも看板女優の演技力をもってしても制御できない不満の表れか。
しわくちゃになってしまう前に彼女の小さな手から論文を回収した。トン、とデスクの上で整える。…ああ、遅かったか。すみの方がよれてしまっていた。


「許せないのですか?」
「…許せない、とは、ちがう。許す許さないの問題じゃないんです。2年前からとっくに始まっていたことの、その最後の最後の激動のエンディングだけ見せられたみたいな。なんだろう。消化不良?」
「面白い例えをしますね、あなたは」
「アクロマさんは、ちがうの?」


どこか悲鳴に似た小さな驚愕の声にちらりと目をやれば、予想通り小さな少女は顔色を蒼白にしていた。
そんな顔をしてしまうのなら、わざわざここにこなければよかったのに、と思った。けれどそういうわけにもいかなくて来たことをなんとなく察していたアクロマは何も言わなかった。けれど、顔色を喪失しないでほしい。これではこちらがいじめているようではないか。


「わたくしは研究さえできればそれでよかったので」
「…当事者なのに」


責めるような声は、ちっとも心を揺らさなかった。「今もあのときも、わたくしの頭のなかは研究のことだけです」と淡々と返す。実際、間違ってない。

アクロマとメイはちがう。アクロマの中では人生の十大珍事くらいにされて片づけられてしまうことを、メイは引きずっているのだろう。性別からして違えば性格も、事に接した当時の年齢もまるでちがう。
今になって、しでかしたことにひどく不安になって、同意を求めているのだ、彼女は。けれどアクロマに言わせれば、こんな研究しか頭にない人間の同意を得たってあまり変わらないのだ。だからどうせなら、もうちょっと有意義な言葉を贈ってやろうと思う。最後の最後に後始末をした、途中参戦の者同士。




【それでもいつか世界に微笑む】




「心配しなくとも、すべては終わったことですよ」


だからさっさと、次の世界に飛び立ちなさい。








Title by.白群
20140209



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