素直で無邪気で優しくて嘘つきなリーグ職員さん
scene3/オモダカ狙いの暴行者くん03


 かくして、暴行男は逃げ、私はオモダカに付き添われて病院に運ばれ、入院となりました。
 最悪である。
 病院はなんと個室だった。オモダカの計らいらしい。リーグ職員が何人もお見舞いに来てくれたので嬉しかったが、それはそれとしてオモダカもよく来た。
 殆どが事情聴取だが。
「シキさんも、男性の人相は覚えていない、と」
「はい。暗かったので。オモダカさんもですか?」
「そうですね。ただ、ポケモンは強かったです」
「その言い方だと、ポケモンだけが強かった感じ、ですか?」
「はい。トレーナーとして、指示の出し方は見ていられませんでした。愛情も感じられない」
「はあ」
「警察に話そうと思っています」
「えっ」
「これ以上、被害者を増やすわけにはいけません。シキさんも、安静にしていてくださいね」
「え、でも、私」
「お願いします」
「私は……」
「この病室からパルデアを愛してください」
 いや別に愛してないです。

「はああああ」
 誰もいない病室で、息を吐く。火傷が普通に痛い。どうしたもんか。
「ああ、リリ、ごめんね」
 心配して近寄ってきたオリーヴァのリリを撫でる。さて、ここでも注意は必要だ。監視カメラがマジで隠されているのを私の勘が察知している。絶対にデンリュウのリュトは出さない。ごめんねとボールを撫でた。

「何しとんの」
「あ、チリさん」
 おはようございます。本日最初のお見舞いはチリでした。どうしてだ。
「自分、何しとんの」
「いや、挨拶は社会人の基本では」
「おはようさん」
「はい、おはようございます」
「で、何しとん」
「何、とは?」
「とぼけるんや」
「心当たりが無いので」
「アンタなあ……」
 チリは息を吐いた。おや、ようすがおかしいぞ。
 この人私のこと嫌ってなかったか。というか、色々勘付いてる感があった。実際目の前で始末とかしてたし、うーん。
 思考の海に浸っていると、チリがそっと患部を触った。
「いった!!」
「お、声出るやん」
「当たり前です! 患部を触らないでください!」
「そうやな」
「あのですね、私は今、病人なんです。ですから、チリさんはリーグに戻ってくだs」
「でもなあ、ここまでしてパルデアを守ろうとか、そう言う奴やないやろ、アンタ」
 それはそうである。マジ本当にそれはそう。パルデアの事なんか知らん。私は神さまの不穏因子を排除したいだけなので。
「その目、嫌いや」
「そうですか? どんな目なんですか?」
「うちらの事なんかまーったく見てない目」
 さらりと、チリが私の頬を撫でる。撫でたなあ。
「ここでちゃんと反省してから、リーグに戻ってくるんや」
「反省することなんかありませんよ」
「反省しい」
「何を?」
「アンタが自分の体を大切にできなかった事や」
 特にそんなつもりはない。と言いそうになったがやめた。ややこしいことになる。ので、なるべく空気を読もうとして、チリの目がじっと私を見ていた。というか、観察されてるな、これは。
 ダメだ。適当な事を言ったら、見抜かれる。
「ええと、火傷ぐらいなら治るでしょう」
「ん」
「でも、犯人を捕まえないと、被害は広がります」
「ん」
「だったら、私は火傷を負ってでも犯人を捕まえたかった。身勝手な奴を放って置けなかった。それはパルデアを守るのため何かじゃなくて、」
「ん」
「リーグ職員の皆さんを守りたかっただけです」
 こ、これだー!!
 私はリーグ職員と仲良しなので。完璧な言い訳だろう。そう思っていると、チリは私の頭をそっと撫でた。
「今はそれでええよ」
 でも無茶したらあかんからなあ。それだけ言って、チリは離れた。おお、怖い。
「で、」
「はい?」
 まだあるのか。
「アオキさんに聞いたんやけど、自分、無茶な飲み方するんやって?」
「そ、それ、いま、関係あるんですか?」
「無い」
「だったらその話は無しということで」
「今度サシで飲もうな。酒の飲み方教えたるわ」
「い、嫌です」
 断れば、チリはにっこり笑った。わあ、初めて見たなあ。
「これ、スーパー総大将からも教えたれっていわれとって」
「はいすみませんでしたサシ飲みします」
「いい子やな」
「オモダカさんから言われてるとなると、もう断れないじゃないですか」
「せやろな」
 ほなこれ連絡先。そう言ってメモ帳にさらりと連絡先を書いた。渡された連絡先をまあいいやとヤケになってスマホに登録する。スマホロトムとちゃうんや。そう言われて、疎い人間なのでとだけ答えた。
 それから数日。結果として、私はチリと連絡先の交換という実績を解除して、退院したのであった。嫌すぎる。


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