素直で無邪気で優しくて嘘つきなリーグ職員さん
scene2/アオキ狙いの地雷系ちゃん01


 うーんと高いものに囲まれても、どうでも良くて。にこにこ笑ってれば、勝手に話は進んでいく。そういう自動的なもの、が私にはあるらしい。なーんにも分かんない。
 でも、ただひとつ、わかる事がある。
 神さまは心におられるのです。

「飲み会、ですか?」
「はい、飲み会で、す」
「あの、とっても目が泳いでますよ」
「ううう、先輩ごめんなさい参加してくださいいいい」
「ああ、泣かないで」
 よしよしとほのおタイプの後輩を撫でる。こんなに涙腺弱くてリーグ職員やってけるのだろうか。いけそうだな。ハッサクが四天王やってることだし。
「うっうっ、合コンですぅ」
「合コンですか」
「シキ先輩はそういうのダメだとは分かってるんですけどお! 友達にどうしても連れてきてって言われてえ!」
「ええと、私を、どうして?」
「友達の男友達が、うっ、なんか、一目惚れしたとかでえっ」
 ひっくひっくと泣く後輩は正直とても可愛い。いじらしいことだと母性を覚えながら頭を撫でる。赤縁の眼鏡をそっと掛け直した。さて、そこまで言われたら私だって動かない訳にはいかない。
「分かりました」
「うえっ」
「私、その合コンに行きます」
 日時と店を決まり次第教えてくださいねと言えば、後輩はありがとうございますごめんなさいと土下座した。面白いな。

 で、まあ。合コン当日。私はオリーヴァのリリを連れ歩きながらチャンプルタウンの居酒屋に来ていた。とりあえず酒を掛けられても平気で、なおかつ普段のイメージを崩さないように、と。シャツとカーディガンとタイトスカートを着てみた。手袋もいつものシンプルなものではなく、金の刺繍がされたものだ。
 全て前日から防水スプレーをかけてある。さらに、捨てていいように数日前に新しくネットで買ったものだ。
 ちょっと大学生っぽいなと思ったのでメイクはほんのり大人っぽく。靴だけは高いものを選んだ。なお、その靴にも防水スプレーをかけたし、数日前にネットで購入したものである。昔荒稼ぎしておいたので金には困っていない。過去の私、グッジョブ。

 と、万全の姿勢で来たわけだが。
 後輩が青ざめている。私も気まずい。場は盛り上がっている。男性側の最奥を見なければ。
「何でアオキさんが合コンにいるんですか?」
「し、知らないです……チャンプルタウンだから、ワンチャン遭遇するかもとは思ってましたけどおっいやほんとうに、なんで居るんですかね?!」
「分からないです。正直、年齢層凄いですね」
「私の友達がバカでごめんなさい!」
「いやそこまで言ってないです」
「本当にどうしようもないので後でちゃんと殴っておくのでこの場を何とか潜り抜けましょう、先輩ぃぃ」
「殴らなくても。兎に角、アオキさんは見た目は普通のサラリーマンですが洞察力は凄いので100%こちらに気がついてます。そして、あの顔は絶対、」
「ぜ、ぜったい?」
「アオキさんも困ってます」
「デスヨネェー!!」
 後輩は本当に拳を握りしめてうつ伏せた。可哀想に。オリーヴァのリリがそっと後輩を撫でている。わかる。
 アオキを見れば、こちらをチラリと見て頭を横に振っていた。無理。その声が聞こえる。無理だ、と。
 なお、後輩と私の評価はこんなんだが、アオキは人気のある人物である。オーラはゼロ、というか自ら消しているが、基本的に穏やかで優しいのでガチ恋勢が多い。わたしだけがアオキさんを分かってる!!みたいな子がとても多い。ファンクラブはない。なぜならガチ恋たちなので出会ったら殺し合いが始まるのだ。怖いね。
 私は自己紹介で手短かにリーグ職員してますとだけ伝えて、おばさんでごめんなさいねと言っておいた。後輩が隣であわあわしてたのが可愛かったので、よしよししていたら母子認定された。それで場を繋がさせてくれ。
 アオキとなるべく話さないように、他の参加者達と話す。何となく名前と顔が分かったが、私に一目惚れしたとかいう真の馬鹿はどれだ。なるべく自分のフラグはへし折っておきたいので、私は笑いながらそいつを探そうと結構頑張った。
 結局分からん。酒が進むが、私は酒の味が分からない上に酔わないので、適当にちゃんぽんしていく。どんどん人が潰れていくのが面白い。後輩はジュースを持たせて私の後ろに下がらせていたので、かっこいいです先輩と、私をキラキラした目で見ていた。そうだろうな。
 かくして半分ほどが潰れたのでお開きとなり、後輩は友達を殴りますと連れ帰り、大体が二次会に行くことも無く、実りなき合コンは終わったのである。
 あるが。
「あの、アオキさん?」
「送ります」
「酔ってます?」
「あなたが無茶な飲み方をしていたので」
「私、お酒に強いのですが」
「普通に考えて、有り得ないので……」
「そ、そんなにですか?」
 やばい。今後はちゃんぽんやめよう。あと一気もやめよう。心に誓っていると、アオキが、あと、と告げた。
「業務が残ってるので……」
「何で合コンになんか出たんですか?」
 つまりこれからリーグに行くのかこの人。

 私の居住はセルクルタウンなので、リーグには行かないことを告げると、アオキは私がタクシーに乗ったことを確認してから離れて行った。本当に心配してくれていたらしい。アオキのこと、これからガチ恋生産機と呼ぼうか。私は遠い目をした。しかし久々のチャンプルタウンだったので、実家に寄って行っても良かったなあとほのぼのしているとオリーヴァのリリが外を見た。おやと見ると、何かが飛んでいる。
 なお、パルデアでそらをとぶ移動は厳禁である。
「……よーし」
 凄まじい形相の女性はふわふわとした服を風でボサボサにし、髪型は崩れ、アクセサリーはさっきから投げ捨てている。邪魔なのか。そうか。
「すみません、運転手さん。少し揺れます」
 そう告げて私はそっとデンリュウのリュトを出す。そのままでもいいが、それなりにインパクトが必要だろう。なので、手袋をさっと脱いだ。手を伸ばして、左手薬指をそらをとぶ女性に見せつける。ゆびわ、と目を見開いた。そうだ。それでいい。
「リュト、メガシンカ」
 さらに。
「でんじほう」
 良い子は人間にワザを放っちゃいけないぞ!

 落ちて行った女性を確認して、メガシンカを解く。運転手さんは何か居ましたかと確認してきたので、気がつかなかったらしい。この程度であの女性は死なないだろう。なんせ、ポケモン世界基準となった狂人だ。さっさと死ぬわけがない。
「セルクルタウン前でお願いします」
 はいよーと運転手は返事をした。

 かくして服を全部捨てて、私は相変わらず全裸就寝、全裸起床したのであった。いつものことである。
「おはよう、リリ。リュトも久しぶりにでんじほう撃てて良かったわ」
 バッチリ当ててくれてありがとうと撫でれば、リュトは嬉しそうにばちばちと電気を放った。私は絶縁体体質なのでその電気を浴びながら、元気だなあと嬉しくなった。健康そうで何よりだ。
 ポケモンの世話をして、自分も身なりを整えて、いつも通りにリーグに出勤した。


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